マリンネット×日本海事新聞ウェビナー 深堀り対談 「苦境に立つ日本造船業界の今を読む」
 印刷 2020年10月15日デイリー版4面

記者の視点/鈴木隆史】拡大する「船舶リモート検査」、精度向上へ求められる不断の努力

 新型コロナウイルスの感染拡大を機にすっかり定着したリモートワーク。われわれ記者もインタビューや会見、社内の打ち合わせでオンラインツールを使うことが日常的になっている。取材を申し込むと、対面で実施させてもらえることもあるが、「今回はオンラインで」と回答されることも多い。日々の感染状況に応じて、取材方法が変わる。取材活動におけるニューノーマル(新常態)といえるかもしれない。

 人の移動が制限されることで、海運業界においてもさまざまなリモートワークが増えている。その中の一つに船舶のリモート検査が挙げられる。

 リモート検査の実施主体は主に船級協会や旗国(船籍国)。旗国の検査は船級協会が検査した内容をダブルチェックし、補完するという性格が強いという。コロナ禍で検査官の派遣が困難になったことで、受検する船主からの需要が徐々に高まっている。

 ただ、実際に検査官が船舶まで足を運ぶ従来のスタイルの検査にはなかった課題が、リモート検査では浮上しているようだ。リモート検査では船主側が撮影・送信した船舶の映像をパソコン(PC)やタブレットなどの端末で見て検査する。

 ある旗国関係者は「リモート検査では視覚しか使えず、見落としも起こり得る。従来の検査では、現場で油の臭いがすればエンジンルームで油が漏れているとか、ハンマーでたたいて鉄板の厚みに薄い所がある、といったことが分かった」と語る。

 現時点でのリモート検査は熟練者の五感をフル活用できず、その精度に不安が残るようだ。

 ただ、今後の技術革新次第では、五感の不備を補う検査も可能になるはず。現に欧州では2030年までに人の五感とインターネットの接続が可能になるとのリポートも報告されている。今後の技術開発の動向が注視される。

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 また、実際に現場に出向く検査では、直接の検査項目以外の物も見ることで、船質に関するさまざまな情報が入ってくる利点があるという。

 「船員の服装がきちんとしているかどうか、サンダル履きでないかなどを見ることで、船内の規律が分かったりする。船長室でこちらが指定した書類をすぐに出せるかどうかで船長が本船の全体をどの程度把握できているのかを推察できる」(同関係者)

 こうした現場で察知する類いの情報の収集はリモート検査では困難だ。現時点のリモート検査は、あらかじめ船主側から送られてきた資料映像を検査官が確認し、必要があれば追加の資料を要求し、返信を待つというスタイルで進む。リアルタイムに双方向で行われるものではないという。

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 感染拡大が続く中で、リモート検査のオーダーは増えるだろう。一方で、リモート検査が従来の検査官の派遣を伴うものと遜色ない品質・精度になるには、技術革新が必要でまだ時間がかかりそうだ。それまでの間、検査する側には見落としが起こる可能性を踏まえ、一層の慎重さが必要となる。受ける側もそうした検査官側の環境に甘んじることなく、日々船質の維持・向上を図る不断の努力が求められる。