マリンネット×日本海事新聞ウェビナー 深堀り対談 「苦境に立つ日本造船業界の今を読む」
 印刷 2020年10月12日デイリー版3面

菊田の眼 Logistics Insights】(3):日本海事新聞社顧問・L―Tech Lab代表・菊田一郎、ヒューマン物流DXで「ロジ4+」

ウロボロスの輪
ウロボロスの輪
日本海事新聞社顧問 L-Tech Lab代表 菊田 一郎氏
日本海事新聞社顧問 L-Tech Lab代表 菊田 一郎氏

 前回(9月9日付)、筆者はウィズコロナ時代における持続可能性担保に「物流DXが決定打」になると主張した。先日の本紙「記者の視点」欄でも、次期物流施策大綱の検討会で物流DX(デジタルトランスフォーメーション)が熱く討議されたと報じられている。ロジスティクス「4・0」を目指そうというわけだ。筆者も紙伝票・電話・ファクスの情報伝達で再入力を繰り返すアナログ物流を、今こそデジタル化すべきだと声を大にしている。

 ただし、DXを手放しで礼賛する声に流されるのは危うい。前回触れた米国のBLM(黒人の命だって大切だ)運動や、国内でも社会をむしばみ始めた格差問題に照らすと、「新技術が人間を阻害する」「DXが格差を助長・固定する」危険性を、われわれは改めて認識すべきだと強く思う。

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 昨今の物流DXは、現場作業者に「歩かせない」「探させない」「考えさせない」、詮(せん)ずるところ「誰でもできる化」を理想としている。従事するのは派遣、パート、アルバイトの非正規雇用者。「今日来た人」でも正確に高い生産性で作業できるのなら、会社・管理者はそれでいいのかとは思う。

 だが働く人たちはどうなのか? 「誰にでもできることしかしない私」は〝いつでも交換可能な部品〟にすぎない。部品に「私がやりました」と胸を張る誇り、「私がやらねば」という使命感は持ちにくい。モチベーションは維持できるのか? 家に帰っても心地よい達成感ではなく、機械に使われた疎外感と疲れが心に張り付いていないか?

 「分断国家アメリカ」だけではなく、日本でも今、SNS(交流サイト)で気に入らない店や個人を集中攻撃し、店なら休業、個人では死に至らしめるほど、社会がささくれ立っている。それは労働規制緩和以来、「誇りなき非正規雇用者」が拡大の一途をたどっていることと、無縁なはずがない。1990年代から続く経済危機後、政府の懸命の対策で、コロナ禍前までは企業の内部留保は高止まりに至っていた半面、人々の可処分所得はむしろ減っているのだ。

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 「ウロボロスの輪」=図=をご存じだろうか。古代ギリシャ以来の象徴で、己れの尾を飲み込んで円環となったヘビの図象である。独作家ミヒャエル・エンデが「はてしない物語」で採用した通り、通常それは無始無終、死と再生、完全のシンボルなのだが、筆者はここであえて短絡的に「己れの尻尾を食らう怪物」そのものと見よう。

 産業界はあの危機の中、これから家族を形成し、食品日用品から家電・車・家ほかの耐久消費財不動産まで、長期にわたり豊かな「未来の需要と子孫」を生み出すはずであった「ロスジェネ」以降の世代から、正規雇用の機会(=未来の市場・希望=己れの尻尾)を先食いし、「今の己れ」を維持する道に走った。やむを得なかったとの意見はあろう。だが増え続ける非正規層にトリクルダウンはなお十分届いていない。

 筆者がここまで危機感を募らせるのは、環境破壊と並んで今や「貧困・格差・差別」問題が、未来の地球社会を荒廃から守り、持続可能とする挑戦への最大の壁になったと実感するからだ。

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 今さらだが「チャップリン再び」なのである。彼は早くも84年前、「モダン・タイムス」(1936年、米国)で「機械・歯車に飲み込まれ疎外された人間」を、スピルバーグは「レディ・プレーヤー1」(2018年、米国)で「AI(人工知能)と仮想・拡張現実に飲み込まれる人間社会」を描いた。そんな「ディストピア」を回避するためにこそ、先端技術は力を発揮すべきなのだ。

 DXは資本力のある大手しか完遂できない、「物流は装置産業化する」と傍観するだけでは足りない。だからといって21世紀の「ラッダイト運動」(産業革命に反対した機械打ち壊し)もあり得ない。

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 「中小もそれぞれ最適な物流DXを実行し、また協働連合して勝ち残る」道を進むことだ。その過程で「ロジスティクス3・0時代のアナログ作業者を〝誰でもできる化〟で無用化し、人を部品化するDX」「人から誇りと存在意義(アイデンティティー)を奪い、部品人間を大量再生産するDX」を駆逐しようではないか。

 今、必要なのは「誇り・やりがい・情熱・使命感・義理人情」を理解し尊重し、人と支え合って進化する気高い冗長性をつくり込んだ「ヒューマンAI技術」。そしてこれを基盤とした『ヒューマン物流DX』ではないか。それはロジスティクス「4・0」を乗り越える、ロジスティクス『4+(プラス)』への道につながるはずである。

 きくた・いちろう 82(昭和57)年名大経卒。83年流通研究社入社。90年から20年5月まで月刊「マテリアルフロー」の編集長を務める。同年6月、L―Tech Lab設立。同月、日本海事新聞社顧問就任。