マリンネット×日本海事新聞ウェビナー 深堀り対談 「苦境に立つ日本造船業界の今を読む」
 印刷 2020年10月09日デイリー版2面

インタビュー ゼロエミEV船建造】旭タンカー経営企画部長・市川武義氏。船員負担軽減、BCP対応も

旭タンカー経営企画部長 市川 武義氏
旭タンカー経営企画部長 市川 武義氏

 旭タンカーは先月、ゼロエミッション(排出ゼロ)の大容量電池駆動による電気推進タンカー(EV船)2隻の建造契約を締結した。市川武義経営企画部長に、建造を決定した背景、EV船を含めた船舶のデジタル化などの取り組みについて聞いた。(聞き手 五味宜範)

■労働環境改善重視

 ――EV船を建造しようとしたきっかけは何か。

 「旭タンカーは、商船三井、エクセノヤマミズ、三菱商事と共同出資してEV船の開発・普及を目指す『e5ラボ』を立ち上げている。出資会社の一つエクセノヤマミズから2018年初頭、EV船建造を持ちかけられたことが、そもそものきっかけだ。企業の長期的成長の原動力としてESG(環境・社会・企業統治)の観点を持つことが求められる中で、このような取り組みも必要と考えた」

 「事業化調査の過程で、EV船の建造決定を後押ししたのはGHG(温室効果ガス)削減に加え、乗組員の労働環境が改善される点。EV船では排ガスが出ない、振動がないほか、内燃機関がなくなることで貨物スペースに加え乗組員の居住エリアを広げることができる。当社は内航船主・オペレーターとして船員の労務負担軽減・労働環境改善に重きを置いており、この点が一番しっくりきた。EV船は、デジタル化に親和性もある。こうした先進船への取り組みは、乗組員に夢を与えることができる」

 「国内の石油需要は減少しており、それに関連する貨物を運ぶ当社としても、内航・外航輸送に加え、第3の事業を創出することが大命題となっている。EV船をそのきっかけにしたいと考えた」

 「ゼロエミッションでは、使う電気の発電の仕方も問われる。EV船のインフラ整備などに対応するため、e5ラボの出資者4社と、出光興産、東京電力エナジーパートナー、東京海上日動火災保険の計7社は、『e5コンソーシアム』を立ち上げた。EV船への電気の供給はメンバーの東京電力エナジーパートナーと検討を進めているが、将来的には、同社から供給を受ける電気を全て再生可能エネルギーにする仕組みをつくることができれば、真のゼロエミッションを実現できる」

■長期に電気供給も

 ――建造する2隻の概要は。

 「499総トン型の舶用燃料供給船(バンカリング船)で、平水区域の東京湾内で運航する。第1船は興亜産業(本社・香川県丸亀市)、第2船は井村造船(同・徳島県小松島市)でそれぞれ建造する。第1船は22年3月、第2船が23年3月の引き渡しを見込む。給配電・推進システムなどを含むシステムインテグレートは川崎重工業が担う」

 「2隻の導入により、低環境負荷、乗組員の労務負担軽減・労働環境改善に加え、BCP(事業継続計画)やLCP(生活継続計画)対策に貢献できる面も強調したい。台風などの災害で大規模停電が発生した際、電気自動車が非常用電源として利用されたが、供給できる電気量が限られている。同2隻に搭載するリチウムイオン電池の容量は各3480キロワット時で、標準的な電気自動車の100台分に相当する」

 「2隻は貨物船ではなくタンカー。C重油を1200キロリットル積むことができる。蓄電した電気に加え、技術的課題はあるものの、C重油の代わりにA重油を積載して被災地付近でそれを利用し船内の非常用発電機で発電を行い、長期にわたり電気を供給することもできる」

■運航船社の使命

 ――2隻の船価について聞きたい。

 「通常の499総トン型タンカーと比べ約6割上昇する。省エネを実現しているのだが、EV船を対象とした制度設計がなされておらず、省エネに関する補助金スキームを利用できない。当社が平水区域で運航するバンカリング船は6隻程度で、全て船主から用船している。船価が割高となるほか、新技術を適用していることもあり、船主にリスクを負わせることはできず、今回初めて自社建造船とした」

 「補助金がなければ建造しない、というのならイノベーションは起きない。荷主と船主の間に立ち、業界の発展、そして課題解決のために、このような新しい船を開発・建造することこそオペレーターの使命と思っている。CAPEX(資本的支出)は高くなるが、OPEX(事業経費)の削減などで努力する」

 ――船舶のEV化をさらに進めるのか。

 「当社の内航船隊は、6000キロリットル積み以下で120隻規模。平水区域だけでなく、沿岸域を航行する船舶までEV化することは、効率などの観点で現実的ではない。主機関直結駆動とのハイブリッドなどを今後検討していきたい」

 ――EV化以外に、船舶のデジタル化で新しい動きはあるか。

 「当社のバンカリング業務は、電話で依頼を受けて実施している。今後、顧客が携帯端末などでオーダーできるようなアプリケーションの開発を米オラクルグループと進めている。EV船とリンクすることでデジタル化の加速につながる」

 「あってはならないことだが、当社ではこれまで事故を含むトラブルを経験しており、それに関する情報の蓄積がある。このデータを利用しやすく整理することなどで、最終的に事故を起こさないようにするシステムをつくりたいと考えている。何かトラブルが発生した場合、船員教育を強化するなど従来のやり方ではなく、人間の特性などを踏まえた科学的なアプローチが必要ではないか」

 いちかわ・たけよし 97(平成9)年旭タンカー入社。20年4月から現職。千葉県出身、49歳。