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 印刷 2020年10月02日デイリー版1面

インタビュー 海運のインフラとして70年】日本船主責任相互保険組合(ジャパンP&Iクラブ)理事長・高橋静夫氏、船主のファーストクラブに

日本船主責任相互保険組合(ジャパンP&Iクラブ)理事長髙橋静夫氏
日本船主責任相互保険組合(ジャパンP&Iクラブ)理事長髙橋静夫氏

 10月2日に創立70周年を迎えた日本船主責任相互保険組合(ジャパンP&Iクラブ)。同組合は賠償責任保険の提供を通じて、戦後の日本海運の再興、発展を支えてきた。高橋静夫理事長は「今後も船主から最初に選ばれるファーストクラブとして、ベストなサービスを提供していきたい」と語り、日本の海事クラスターのさらなる発展に貢献していく考えを示した。高橋理事長に今後の運営方針などを聞いた。(聞き手 山田智史)

 --ジャパンP&Iクラブの役割は。

 「当組合は戦後復興の途上で日本海運が国際的な商業輸送に再び乗り出すに当たり、賠償責任保険の手配が必要だったため、船主相互保険組合法に基づき設立された。日本海運の再興、発展とともに今日に至る」

 「1950年に組合員数132人、加入船舶630隻・190万重量トンで発足。現在は組合員数3158人、加入船舶4198隻・9930万総トンまで拡大した。加入船舶は近々、1億総トンを超える見込みだ」

 「組合員の事業の経済的安定とさらなる発展に貢献することが根本にある。万一の貨物損害や船舶事故、環境汚染をもたらす油濁損害などの緊急時に、迅速な事故処理と保険填補(てんぽ)による補償を行う。社会的に果たす役割は大きいと考える」

 「賠償責任保険の手配は船舶の運航上不可欠であり、海運業界にとっての事業インフラだ。時代の要請に合わせた保険サービスの設計と提供を通じて、日本の海事クラスターの発展のお手伝いをすることがわれわれの使命だ」

 --新型コロナウイルス感染拡大の影響は。

 「コロナ禍による経済活動の下振れに対して、海運業界は目下のところは何とか持ちこたえている。保険市場にとってコロナ禍の影響が出てくるのはこれからだと思う。特に再保険市場に影響があると考えている」

 「船員交代が滞っていることは、安全運航上の大きな問題をはらんでいる。本来の乗船期間を超える長期勤務は、船員の士気の低下や注意力、集中力の劣化につながる恐れがある」

 「船員交代のために、予定航路から離路しなければならないケースが増えている。当組合は船員交代のために離路した時に貨物損害が発生した場合でも、事前に連絡を頂くことで、追加保険料なしで貨物損害の填補をする対応を始めた」

 「コロナ禍で物流の最前線で奮闘している船員に対しても、経済活動や暮らしを支えるキーワーカーとして、各国政府の理解と前向きな対応が望まれる」

■サイバー攻撃備え

 --デジタル化や自律運航など、船主責任保険を取り巻く環境も変化している。

 「陸側から船舶の運航状態をリアルタイムでモニタリングできるようになった。収集したビッグデータをAI(人工知能)で解析し、不具合の予兆を診断できるようになりつつある。船舶もサイバー空間でコネクテッドな存在になっている」

 「船陸のデジタルインフラと運用ソフト、業務プロセスの各側面で、サイバーリスクに対する備えが不可欠になる。船舶のデジタライゼーションを推進していくために、海運業界が備えるべきサイバーセキュリティーの標準が取りまとめられることを期待している。業界標準に沿った形で、当組合も船主のサイバーセキュリティー強化とサイバーリスク対策のお手伝いをしていきたい」

 --今後の課題は。

 「世界の13のP&Iクラブで構成される国際P&Iグループ(IG)は世界の船舶の9割をカバーしており、巨額損害賠償責任を填補するリスク分担スキームのプラットフォームとして機能している。当組合はアジアで唯一、IGに加入しており、加入要件である信用格付けとしてS&P BBB+(アウトルック:ポジティブ)を維持している」

 「他のP&Iクラブや損保会社との競争が激しくなり、保険料率は低下している。保険料収入が伸び悩む中で大型クレームが頻発し、クレームの発生件数も増加傾向にある。当組合の業績も年々厳しくなっている。そのため遺憾ながら2020保険年度で外航船保険は7・5%のジェネラルインクリースを実施した」

 「21保険年度更改に向けてもモーリシャスで発生した座礁油濁事故などもあり、引き続き厳しい業績を予想せざるを得ない。厳しい環境下でも、組合員のニーズに対応すべく、LNG(液化天然ガス)燃料船や自律運航船、電気推進船、液化水素運搬船などの保険引き受け体制の整備を進めていく。組織も刷新し、必要な改革を推し進めていく」

■社会的使命果たす

 --70周年という節目の年に理事長に就任した。

 「新型コロナの地球規模の感染爆発は、海運業界にとって未曽有の試練となっている。当組合は船舶の運航リスクに備えるために不可欠なインフラである賠償責任保険の提供を通じて、試練の時期の海運業界をリスクコントロールの側面からしっかりと支えていく」

 「当組合が担っている社会的使命を十分に認識しつつ、組合の運営に全力を傾注する。杉浦哲前理事長の改革に向けた取り組みを継承して、良質な契約の引き受け拡大とシェアの回復に努めていきたい。メンバーファーストで、船主から最初に選ばれるファーストクラブとして、ベストなサービスを提供していく」

 たかはし・しずお 81(昭和56)年大阪商船三井船舶(現商船三井)入社。06年経営企画部長、08年執行役員、11年常務執行役員、14年取締役常務執行役員、15年取締役専務執行役員、18年代表取締役副社長、20年7月から現職。61歳。