MariTech Webinar Japan 2020 <日英同時配信>
 印刷 2020年09月18日デイリー版1面

コロナ下も健闘 油槽船部門】(1)日本郵船執行役員・人見伸也氏。LNG焚きVL提案も

日本郵船執行役員 人見 伸也氏
日本郵船執行役員 人見 伸也氏

 2020年4-6月期に、ドライバルクや自動車船が新型コロナウイルスの影響で軒並み低迷する中、VLCC(大型原油タンカー)などの油槽船部門は好市況や中長期契約の着実な履行で業績を押し上げた。邦船大手3社の油槽船部門の担当役員に、同部門を取り巻く最新の動向などを聞いた。初回は日本郵船の人見伸也執行役員。

 --原油船市況の動向をどう分析するか。

 「原油船市況の変動が顕著だ。これまでであれば10年に一度あるようなレベルの急騰が昨年以降2、3回発生している。昨年は中東ホルムズ海峡周辺での地政学的リスクの顕在化や、イラン産原油輸送に関与した中国船社への米国の制裁などで上昇した。今年に入ってからも米国によるイラン革命防衛隊司令官の殺害などの米イラン対立の先鋭化で急騰した」

 「3月には、OPEC(石油輸出国機構)加盟国とロシアとの協調減産決裂を機に、サウジアラビアが一時増産に転換。買い先が決まっていないまま大輸出攻勢を掛けた。供給過剰で原油価格は下がり、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は一時マイナスを付けた。先高を見据えたコンタンゴプレーでの洋上備蓄も増え、船腹需給がタイト化し、暴騰した」

 「これらはいずれも、新型コロナウイルスとは関係のない事象により起こったものだ」

 「一方、足元では低迷している。新型コロナの影響で需要が大幅に減退しているのが主因。一時100隻規模に達した原油価格の先高を見据えた洋上備蓄も一服、実需が弱まっている。OPECプラスは大規模減産に踏み切り、貨物そのものが出てこない状況だ。中国沖では今も滞船が見られるが、陸上のタンク代わりに使用している向きが強い」

■フリー船で情報収集

 --市況上昇の恩恵を直接受けるフリー船などのエクスポージャー(市況変動にさらされる契約形態)に対する考えは。

 「VLCCの運航船隊約30隻において、フリー船は1隻のみ。今年前半に市況が良かったタイミングに、将来の市況リスクも踏まえ、ある程度契約を固め、フリー比率を減らした」

 「ただ、フリー船をゼロにするとマーケットとの接点がなくなる。1隻でもあれば、マーケットから情報が入ってくる。また、フリー船は中長期契約の切れ目のバッファーとしての機能もある。当面は現状の規模を維持する」

 --LNG(液化天然ガス)燃料化の検討は。

 「顧客との間でも話題にはなるが、いつごろまでという様な具体的な話にはなっていない。LNG燃料は寄港地が決まり供給地を固定できる、自動車船・コンテナ船の定期配船や、長期契約の専用船で先行するだろう。不定期配船であるトランパーでの議論は、こうした定期配船で先行し、バンカー供給地、価格が見えてきてからかと思う」

 「一方、海外では英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどエネルギー企業がLNG焚(だ)きのVLCCで先行している。本件では用船者自身がLNGのサプライヤーのため燃料転換しやすいことが大きいのだろう。ただし、条件はそろいつつあるので、われわれも前向きにお客さまに提案していきたい」

■冬場の需要増に期待

 --石油製品船(プロダクトタンカー)市況については。

 「4月末ごろに急騰する局面もあったものの、総じて不振が続いている。中でも新型コロナの影響で航空便が減便・運休したため、ジェット燃料の需要減が響いているようだ。ジェット燃料は本来の用途以外では灯油くらいしか使い道がない。冬場に入り灯油需要が強まれば、もう少しさばける可能性はある」

 「MR(ミディアムレンジ)型は春先までは日建て2万ドルを超えていたが、足元(9月上旬)では多くの航路で同7000ドルにまで低迷している」

 --船隊構成は。

 「VLCCの現在の支配船は用船も含め約30隻。最重要顧客は国内の石油会社だが、中国、インド、タイなどの顧客とも良い関係を築いている」

 「プロダクトタンカーはLR(ロングレンジ)2型3隻を東京で、MR型約10隻程度をシンガポールで運航している。市況リスクを低減しようと、一部船隊を圧縮した。今後も状況を見ながらも必要な船隊は維持していきたい」

 「ケミカル船はノルウェー船社のストルトニールセンとのJV(共同事業)で18隻を共同保有・運航している。ストルトは歴史あるケミカルタンカー業界ナンバーワンの会社。これからも良きパートナーとして連携していく」

 「LPG(液化石油ガス)船はVLGC(大型LPG船)11隻体制。LPG元売り大手のアストモスエネルギー向けが中心だ。海外顧客ではフランスのエネルギー大手トタルとの間でも定期用船契約を締結している」

■安全・安定を徹底

 ――その他の代替燃料の整備の動きは。

 「メタノール船では2元燃料(DF)でメタノール焚(だ)きとしている。LPG(液化石油ガス)船でもDFが主流になりつつある。次に新造整備する際にはLPG焚きを視野に入れる」

 ――油槽船は地政学的リスクのある中東海域への配船が多い。航行安全に対する考えは。

 「最近では、日本関係船舶のモーリシャス沖での座礁事故があり、油濁に対し、世界的にも高い関心が寄せられている。われわれの部隊ではバンカーだけでなく、大量の油を貨物として輸送しているので、日々安全運航には細心の注意を払っている」

 「当社は1997年7月に東京湾中ノ瀬で原油タンカー『ダイヤモンド・グレース』で流出事故を起こした。その反省、教訓に立って、毎年夏に『リメンバー中ノ瀬キャンペーン』を実施している。このキャンペーンを通じ、安全運航、安定輸送の重要性を陸上、海上全社員で再認識することに努めている」

 ――化石燃料から再生可能エネルギーへの転換、国内需要の減退など、変わりゆく事業環境に対する見解は。

 「かつては石油の供給のピークがいつ来るかが注目されていたが、今では需要のピークが議論されている。その時期についてはコロナ前の2019年、30年、40年とさまざまな見方がある」

 「ただ、世界の需要については、先進国では減少の方向にあるが、途上国や人口の多い中国、インドなどでは増えるとの見方もある。いずれにせよ、われわれとしては需要がある限り、実直に安全・安定輸送に徹する」

 ――新型コロナウイルスの影響で船員交代が滞っている。油槽船ではどうか。

 「油槽船でも船員交代の停滞は課題になっている。交代地となる国・地域によってルールは異なり、状況も刻々と変わっている。船員の出国前のPCR検査、フライトの確保、交代地での検疫、本船までの移動と、船員交代を構成する点と線と点について最適な組み合わせを模索し、何とか交代している状況だ」

 「フライトがなく、船員の居住国であるインドやフィリピンにデビエーション(航路離脱)し、交代した例もある」

 「だが、最近になり中東ドバイで交代地としての規制が緩和され、タンカーの船員に関しては一時期よりも交代がしやすくなった。長期乗船者も徐々に下船できるようになっている」

(随時掲載)

 ひとみ・しんや 84(昭和59)年一橋大経卒、日本郵船入社。11年秘書グループ長、13年港湾国内グループ長、16年タンカーグループ長、18年経営委員、20年執行役員(名称変更)、60年7月生まれ。60歳。