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 印刷 2020年09月16日デイリー版1面

インタビュー 次世代の船主経営】三菱鉱石輸送代表取締役副社長・小笠原和夫氏、透明性高くESG追求

三菱鉱石輸送代表取締役副社長 小笠原和夫氏
三菱鉱石輸送代表取締役副社長 小笠原和夫氏

 三菱鉱石輸送(本社・東京都)はケープサイズからパナマックスまでのバルカーやチップ船、自動車船を計21隻保有・管理している。日本郵船、三菱商事を大株主に持ち、東京に本拠を置く船主として独自の経営理念を貫く。小笠原和夫代表取締役副社長に三菱鉱石輸送が目指す船主像を聞いた。(聞き手 柏井あづみ)

 --船主としての経営理念は。

 「船主の本分は、用船者に不安のない船舶と運航管理を提供することだ。予想外の遅延や乗組員のけがといった不測の事態を日頃の準備でどれだけ少なくできるか。ゼロにすることは難しいが、常にそのプロセスを用船者に高い透明性で開示することが重要だ」

 「具体例として最近、ある海外の荷主にパナマックス1隻を貸船した際、当社は対象船だけでなく、全保有船21隻の過去1年間のPSC(ポートステートコントロール、寄港国検査)記録を提供した。こうして会社全体で透明性を示したことが、用船者から高く評価された」

 「当社保有・管理船では船員が荷役作業において気づいたことや、船員のけがなど、プラス・マイナスの両面を包み隠さずリポートする。用船者が三菱鉱石輸送を起用することで安心を感じ、用船料とは別のクライテリアで評価してもらうことが理想だ」

 「船主が単なるオペレーターのオフバランスの受け皿になってしまったら、それは形を変えた金融業にすぎない。日々の準備と覚悟により、用船者のサプライチェーンの価値向上につなげることが船主業の意義だ」

■公正な調達徹底

 --世界の大手荷主・用船者がESG(環境・社会・ガバナンス)経営を推進している。

 「ESGの精神を実際の仕事に反映するためには、公平さが重要なポイントになる。当社は船員の乗船レコードの綿密な評価に加えて、船用品などの調達におけるサプライヤーの選定や調達プロセスの公正さを徹底している」

 「さらに当社は定期的に株主の日本郵船、三菱商事の管掌部門からの監査を受けており、特に三菱商事は総合商社としてガバナンス水準が非常に高い。三菱グループの一員として、誇りをもってガバナンスの観点でも海陸両面でグレードアップしようとしている」

 --国内船主は瀬戸内を本拠とする企業が多いが、三菱鉱石輸送は東京に本社を置いている。

 「東京は確かにオフィス立地コストが高いが、オペレーターに近い目線を持つことができる。用船者が何を望んでいるかという視点で船舶管理のレベルを高め、不具合が起きればすぐに用船者に報告し、緊密なコミュニケーションを取っている」

■比国合弁で研修

 --船員の安全意識向上にどう努めているか。

 「フィリピンのパートナーとのマンニング合弁会社『MOT-BARKO MANILA』では定期的に休暇中船員を集めた安全ワークショップを開催している。フィリピン人船員とは長期の雇用形態はないが、当社のリピーター率は96%に達する。東京オフィスでもフィリピン人海技者6人が働いており、船の現場が何を求めているかを直接把握できている」

 「保有・管理船は週1回のマスターリポート提出に加え、定期的に非通知のインスペクションを受ける。これは前触れなく、機関室やデッキ回りなど船内の特定部分の写真を送るよう指示し、常日頃のメンテナンスをチェックする作業だ」

 「一昨年からは表彰制度『トリプルゼロ・プラスゼロ』を開始した。1年を通して『PSCでの欠陥指摘ゼロ』『不稼働ゼロ』『重大事故ゼロ』および『船員のけが・病気ゼロ』を達成した船を評価し、船員の家族を集めたクリスマスパーティーで表彰する」

■船員の通信充実

 --船員の福利厚生の観点で船内の通信環境も問われている。

 「訪船時に船員にヒアリングすると、乗船中に家族とコミュニケーションを取りたいという要望が多い。当社船隊では時間帯を決めて船員がインマルサット衛星通信の一定のデータ量を使用できる通信カードを提供している」

 「また次世代通信システムへの移行も随時進めており、全船が完了する2年後には乗組員が業務時間以外に制限なく家族とメールのやりとりができるようになる」

 --コロナ禍で世界的に船員交代が難航している。

 「依然として状況は困難だが、全力を挙げて対応を図っている。6月に鈴木一行社長が社内に発信した新型コロナ対策の基本方針は『スタッフの命を最優先事項と考え、エッセンシャルカンパニーとして社会的責任を果たす』ことを掲げている」

 「船員交代のために船舶の待機時間の増加や、船員が日本で2-3週間の滞在を強いられるケースもあるが、乗組員の健康を第一に一定のロスを覚悟で進めている」

■LNG焚き育成

 --次の時代を見据えた課題は。

 「国際社会のGHG(温室効果ガス)削減要求に応えるためにも、LNG(液化天然ガス)燃料船が一つのターゲットになる。ただ、LNG焚(だ)き外航船の船員には、危険物取扱責任者(低引火点燃料)の資格が要求されるため、LNG船やLNG焚き船舶での一定期間の乗船経験が必要になる。将来的に株主の日本郵船の協力を得て訓練を進めたいと考えており、船員にとっても資格取得は透明性の高い昇進プランにつながると期待している」

 おがさわら・かずお 82(昭和57)年慶大経卒、日本郵船入社。06年製鉄原料グループ長、09年経営委員、13年取締役経営委員、16年常務経営委員、18年6月から現職。62歳。