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 印刷 2020年09月15日デイリー版1面

インタビュー 新型コロナ対応】海技教育機構理事長・野崎哲一氏、感染防止徹底 乗船実習を継続

海技教育機構理事長 野崎哲一氏
海技教育機構理事長 野崎哲一氏

 新型コロナウイルス感染が長期化する中、船員教育の現場ではその対応を巡って苦慮している。特にコロナ禍で制約の大きな乗船実習など、対応すべき課題は多い。船員養成や練習船での航海訓練を行う海技教育機構(JMETS)の野崎哲一理事長に、コロナ禍での取り組みなどについて聞いた。(聞き手 幡野武彦、鈴木一克)

■各校独自に指標

 --新型コロナ感染拡大で学校教育の中断を余儀なくされた傘下学校の状況は。

 「新型コロナ感染拡大で3月から、海上技術学校や海上技術短期大学校は休校となってしまった。その間、生徒たちには在宅学習などで対応してもらった」

 「6月からは徐々に学校を再開することができたが、それに合わせた感染予防対策ガイドラインを策定。寮生は2週間の外泊自粛、通学者は不要不急の外出禁止などを盛り込んで授業などを再開した。再開の時期は、6月15日から海技大学校、同23日から海上技術短期大学校と海上技術学校の順次再開となった」

 「これらのコロナ対策ガイドラインは各学校によって異なっており、例えば海技大学校でのものは各コース別や各場面を想定した詳細な内容となっている」

 「練習船でのコロナ感染症対策ガイドラインでは、乗船経験のある医療関係者に監修を依頼して取りまとめた。そもそも練習船の船内は3密が避けられない場所なので対応には苦慮したが、何度も改訂するなどかなり工夫したものとなっている」

 「乗船2週間前から健康観察期間として記録を付けさせたほか、それを踏まえた乗船可否の決定、また乗船時にも公共交通機関を避けて貸し切りバスで実習生を移動させた。このほか、船上でもできる限り少人数で実習ができるような工夫をしている」

 「まずは新型コロナウイルスを船内に持ち込まないのが基本。これを徹底するための内容となっている。そして万が一、練習船で陽性患者が出たとしても、それを広げないための方策を取りまとめている」

■受診しやすい海域

 --コロナ禍での練習船による乗船実習への影響は。

 「3月から中断していた練習船による乗船実習も、7月1日から再開した。ただし、実習を行う海域については実習生が発病した場合のことも考慮し、すぐに下船して医療機関への受診がしやすい場所を選定した」

 「例年、夏場の乗船実習では北海道など北の海域や日本海側が多いが、今期の訓練海域には両方とも入れていない。関東や関西、九州の港に戻りやすい太平洋側となっている。また、再開した練習船での実習内容も実技中心のものとなっている」

 --乗船履歴の確保は大丈夫なのか。

 「練習船が再開したものの、海技免状の取得に必要な乗船履歴をどう確保するのか、コロナ危機が表面化してからの大きな課題だった」

 「これについては国土交通省海事局と相談し、乗船実習期間の短縮に伴う代替措置などについて承認を得て訓練を行っている」

 「また3級海技士免許取得に必要な遠洋航海は、例年のようなハワイやシンガポールなどへの航海ができないことから、海事局が通達で遠洋航海の代替となる『出港地または寄港地から100カイリ以遠の水域で、通算4000カイリ以上の航海』を満たす条件で対応している。練習船『青雲丸』と『銀河丸』が小笠原海域など日本の南方水域で、この条件を満たした遠洋航海相当の訓練を実施している」

■進路に影響ない

 --乗船実習再開が7月となったが、学生の進路に影響は出ないのか。

 「現状は特例で訓練期間が短縮されているが、所定のカリキュラムを修了できるスケジュールで動いている。卒業や免状取得要件への影響は全くない」

 「コロナ禍であっても学生が外部環境で卒業や進級ができないことが、あってはならない。業界からの要請もあり、影響ないようしっかりと進めている。その意味では7月の練習船再開は、今年度の卒業・免状取得に影響しないぎりぎりのタイミングだった。今年度と来年度の配乗計画を工夫して全ての実習生を受け入れることとしている」

 --今の中期計画は今年度が最終年度。振り返った感想は。

 「現行計画についてはこれまで、学校および練習船による海技教育の実施▽海技教育や船舶運航に関する研究の実施と成果の普及▽海技教育の知見の普及・活用と海事思想普及活動の実施-の3点を中心に取り組んできた。これは5年前の当機構と旧航海訓練所との統合効果を発揮するために策定されたものだが、十分な成果を出せたのではと自負している」

 「その一方、多様なリソースからの優秀な人材確保▽研究の質の一層の向上▽より効果的な海事広報、災害支援活動の実施-は、まだ道半ばと感じている。また内部統制やコンプライアンス事案などについては、次期中期計画への継続課題だという認識だ」

■優秀な海技者養成

 ――来年度からの新中期計画に対する方針は。

 「方針を考えるため、まずは組織が共有すべき社会的存在意義や使命となるミッションステートメントを策定した。当機構のミッションステートメントは、わが国最大の船員養成機関として海運業界のニーズに応じた船員を育成するほか、船員の実務教育を通じた優秀な海技者の養成だ。これは今後も質を維持しながら継続して求められる、安定戦略として位置付けている」

 「もう一つは当機構の中核的能力であるコアコンピタンスとして、幅広いリソースから人材を確保して船員を養成する能力▽政策実現のための諸課題への対応を先導する能力▽海事広報のフラッグシップとしてのけん引力▽高いスキルと指導力を備えた教官の確保・育成力▽安全衛生推進能力―の5つがある。これを踏まえ、船員の確保・育成▽海事政策の実現▽社会貢献▽教育人材の確保・育成▽安全衛生の推進―を目指していく。これが成長戦略となる」

 「これら安定戦略と成長戦略の2つを基礎として、これから年内をめどに次期中期計画をまとめていく。具体的な内容はこれからとなる」

 ――練習船の新造も検討課題になるのか。

 「JMETSの練習船は今、5隻(うち帆船2隻)。汽船の中には間もなく船齢30年を迎えるものがあり、また、慢性的な多科多人数配乗の解消の必要性もある。次期中計では、これらの諸課題に対応するため、練習船の新造も視野に、計画的な練習船隊の整備を進めるつもりである」

 ――帆船実習の在り方は。

 「日本の船員養成では、帆船実習が行われてきた長い歴史がある。これは船員を養成する上で、帆船が最も優れた教育環境だったからにほかならない。過去に何度も帆船実習の必要性の議論はあったが、その都度、船員養成の基礎作りには帆船が最適との結論になった」

 「ただ、練習船日本丸での事故を受けて、マストを上る登檣(とうしょう)訓練はしばらく中断していた。今年1月から再発防止策などを取りまとめて登檣訓練を再開したところだったが、新型コロナ感染拡大で再び中止とせざるを得ない状況となった。現時点では十分な安全対策と感染症拡大防止策を講じながら訓練再開に向けて検討している」

■「小樽」の動向が鍵

 ――国の方針として海技短大化への重点化があるが、この辺りも次期計画に盛り込まれるのか。

 「海上技術学校の短大化は大きな方向性として国が政策として打ち出しており、これをどう具体的に落とし込んでいくかが課題となっている」

 「その意味では、来年4月から小樽海上技術学校が、航海科専門の海上技術短期大学校として開校する。学生の募集が始まったところだが、応募状況に注目している。小樽の動向が一つ大きな試金石になるのではないか」

■コロナ禍求人盛況

 ――来春卒業生の求人状況は。

 「8月19日時点での求人数は1311人となっており、非常に盛況。ほぼ例年通りとなっている。景気悪化で社会全体では厳しいと言われているが、内航海運を中心とした人手不足もあり、コロナ禍による求人への影響は出ていない。2019年度卒業生の海事関連企業への就職率は95%と高水準を維持しており、今年度も期待できそうだ」

 「ただし、コロナ禍で例年開催しているような海運ガイダンスが実施できなかったほか、夏の内航船乗船体験も中止となった。それでもウェブでの就職説明会が行われたことで、練習船から学生がこうした説明会に参加することができた。これは海技教育財団からの支援も受けながら、各校の就職支援活動にかかるWi―Fi環境を一気に整備したことによるものだ。今後も海技者セミナーがあるので、学生を積極的に参加させていきたい」

 のざき・てついち 78(昭和53)年慶大経卒、日本郵船入社。07年経営委員、09年常務経営委員、11年6月近海郵船社長。16年4月から現職。神奈川県出身、65歳。