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 印刷 2020年09月07日デイリー版2面

国内船主の今】(232):中古売船で地銀融資残高減少へ、船主次第の通信環境

 「通信環境のコストを船主側で全部持てと言われても、そんなことできるわけがない」

 9月の声がようやく聞こえた1日午前、今治船主が電話口で吐き捨てるように言い放った。

■Wi―Fiに注目

 モーリシャス沖での座礁事故でにわかに注目を集めている船舶の「Wi―Fi環境」。船員のスマートフォン使用を含めた通信環境は陸上と異なり、外航船だからといって必ずしも整備されているわけではない。

 冒頭の船主が説明する。

 「船員一人一人が個室からインターネットを常時、自由に使うことはそもそも難しい。『鉄の箱』であるバルカー(貨物船)などではマンションのように自由に電波を飛ばすのが難しいからだ。だから船内の集合室など一定の場所、時間を決めて、ラインやネットを行う環境を整備するしかない」

 本船の通信環境コストは、ネットサービスの種類にもよるが、一般的に1隻当たり月額2000―2300ドル(21万―24万円)とされる。

 仮に20隻の船隊を持つ船主は月額480万円、年間5760万円のコスト負担になる。

 呉船主が話す。

 「定期用船の船舶、つまりわれわれ船主の所有する本船の通信環境は船主に任されている。『任されている』というより、船主次第というのが実情だ。当社では外国人船員が通信環境の良い船舶に乗りたがるということもあり、コスト増を承知で衛星通信の回線を導入している。最近は新型コロナウイルスの影響で、寄港しても一時上陸ができず、船員がラインもネットもできなければ、そのストレスは相当なものだろう」

 日本船主の言い分としてはこうだ。

 船員の福利厚生、ひいてはこれが安全につながるのなら、船舶の通信環境は積極的に装備すべきだと思う。しかし、年間で数千万円のコストがかかる以上、定期用船先のオペレーター(運航船社)にも用船料に上乗せする形で負担してほしい。しかし、オペとの定期用船料の交渉では、こうした通信環境のコストは船主負担という現実がある。

 船主任せの本船のネット環境。コストは誰が負担するのか、その問題が先送りになればなるほど、船員のストレスにつながる危険性が増している。

■行内からの圧力

 地方銀行の船舶融資担当者が最近の融資動向について話す。

 「下期の予算を計画しているが、融資残高が減る可能性がゼロではない」

 新造船の竣工がピークに達し、海運市況の低迷とは裏腹に、地銀各社の融資残高は前期から今期にかけて過去最高を記録している。

 その「好調な」融資残高に陰りが見えるというのだ。

 どういうことか。

 前述の地銀担当者が補足する。

 「日本船主の売船意欲が高まっているのが最大の理由だ。邦船オペからの返船、海外オペの減額に伴う用船解約で、日本船主の元には『行き場を失った』船が発生している」

 折しも足元ではウルトラマックス、ハンディマックスなど5万重量トン前後の中型船市況が上昇。中古船市場では「売り」注文があふれているという。

 商社関係者が解説する。

 「新型コロナの影響で、年初から上期は全く中古船売買が成立しなかった。しかし、検船サービスを行う業者の登場などで中古船の売買が物理的に可能になった。日本船主としても邦船オペは減船、海外オペは信用できない、では『船を売れる時に売っておこう』というマインドになるのは当然だ」(船舶部)

 困るのは地銀だ。

 地銀の船舶融資担当者は、融資残高について一様に「無理して積み上げる(貸し出す)方針はない」と取材に答える。

 一方で、地銀全体の中で船舶融資部門の置かれた状況を見れば、融資残高を維持、拡大するという圧力が全くないかといえば、「そこは答えるのが難しい」(地銀の船舶融資担当者)。

 金融庁の地銀に対する合併、統合圧力が続く中、船舶融資部門を持つ地銀は何とか船舶の融資残高で優位に立ちたいのが本音。しかし、周りを見わたしても「新造船の優良案件」は少なく、海外オペ向けBBC(裸用船)など明らかに高リスク案件が目につくばかりだ。

=国内船主取材班

(毎週月曜掲載)