CP_Ultra_01now
 印刷 2020年08月31日デイリー版1面

マルコペイ社、比融資・保険に過半出資。自社ブランドサービス展開、ミャンマーでも覚書

スマホ用アプリから船員が融資・保険サービスを利用できる
スマホ用アプリから船員が融資・保険サービスを利用できる

 日本郵船グループで船員向けデジタルプラットフォームを運営する「MarCoPay(マルコペイ社)」は、フィリピンでファイナンス事業と保険代理業を営む現地企業にそれぞれ過半出資を予定し、9月から同国の船員向けに融資・保険サービスを開始する。出資後は両社の社名にマルコペイを冠し、福利厚生サービスを船員に広く提供するべく自社ブランドで展開する。融資分野では来年以降、主要な船員供給国の1つであるミャンマーでもサービス開始を計画。それに向け今月、現地のファイナンス事業会社と覚書を結んだ。

 マルコペイ社は郵船と、主にフィリピン人船員の配乗で1976年から同社とパートナー関係にある現地物流大手トランスナショナル・ダイバーシファイド・グループ(TDG)が折半出資で設立。9月に船員向けスマートフォン用アプリ「マルコペイ」を始動させる。

 今後はプラットフォーム(PF)への参加者を増やし、構築された船員のコミュニティーと、融資・保険などの個人向けサービス事業者をつなぐことで、船員の生活をより良くするビジョンを実行に移す。今回のフィリピンでの融資・保険サービスは、その具体策の第1弾になる。

 同国では、TDG100%子会社のファイナンス事業者・保険代理業者への過半出資と、マルコペイの略称「MCP」を冠する社名への変更を進める見込み。両事業者への出資は9月中に実施する方向。

 出資完了後は、TDGのファイナンス事業会社「TDGファイナンス・サービシズ」を「MCPファイナンス」に、保険代理業「TDGインシュアランス・アンド・マネージメント」を「MCPインシュアランス・アンド・マネージメント」にそれぞれ改称する予定だ。

 融資・保険の両サービスは、マルコペイの専用アプリから船員が操作し利用できる。

 個人ローン(融資)については、船員が直近で予定する乗船期間で見込まれる収入の範囲の貸し付けから始める。利用回数や返済実績の記録に基づき返済能力が十分あると判断すれば、1回の乗船の収入を超えて融資することも検討する。

 マルコペイ社は船員の事情に精通する強みを生かし、各船員の収入や航海情報などから信用を点数(スコア)化した「クレジット・スコアリング・モデル」を作成。それを「MCPファイナンス」に提供し、総合的に与信判断を行う。

 保険サービスに関しては、「MCPインシュアランス・アンド・マネージメント」が保険会社から商品を仕入れ、船員に提供する。

 具体的には、生命保険、医療保険、自動車保険、火災保険の4つを中心に取り扱う。ここでもマルコペイ社が作成する船員の「クレジット・スコアリング・モデル」を活用していく。

 マルコペイ社は今春から、ファイナンス・保険代理両事業の実務やリスク管理、システム構築など、専門的な知識・経験を持つ複数のスタッフを順次採用。本拠を置くフィリピンで融資・保険サービスの提供体制を整えてきた。

 フィリピンでの融資・保険は自社ブランドで展開するが、同国の他のサービスメニューや海外では「船員の経済的価値に対して最も良い商品を提供してくれるパートナーとの協業」(藤岡敏晃マルコペイ社社長兼CEO〈最高経営責任者〉)を模索している。

 融資サービスは「フィリピンで足場を固めた後、来年早々にも主要な船員供給国の一つであるミャンマーに展開する」(竹中亮太マルコペイ社CSO〈戦略・販売責任者〉)計画だ。

 これに先立ち今月1日付で、ミャンマーのファイナンス事業会社ティリゾーティカ(本社・ヤンゴン、サン・サン・ワー社長)と、船員向けローン提供に関する覚書を締結。同社がミャンマー人船員向けの融資を今後手掛ける際、全てマルコペイ社との協業とすることで合意した。

 マルコペイ社は船員向け福利厚生サービスとして今後、自動車などのリースファイナンスや船員の資産形成を支援する投資商品、自動車や住宅などの購入時に割引が適用されるクーポン、電子商取引(EC)モール、医療、子女教育へのアクセスなどを準備している。

 【解説】「電子通貨の先」

 マルコペイ社は約150万人に上る世界の船員を対象に今年1月、船上での現金のやりとりを電子通貨化するトライアルを実施。この時点で「電子通貨のその先」を見据えていた。今回の融資・保険を第1弾とする、船員向け福利厚生サービスの提供がそれだ。

 マルコペイのPFに参画する個人向け事業者は、購買力の高い船員の経済圏にアクセスできるため、サービスをより良い条件で提供する余地が生まれる。

 これにより、期間雇用であるがゆえに経済価値が適切に評価されていなかった船員が、本来の価値に見合ったサービスを受けられるようになる。

 このように「価値の循環」を実現するPF「マルコペイ」は、経営指針として注目が高まるESG(環境・社会・ガバナンス)、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、個人向けサービスプロバイダーの注目を集める可能性がありそうだ。(松下優介)