船員支援キャンペーン
 印刷 2020年08月19日デイリー版1面

インタビュー 進むサプライウェブ化】ローランド・ベルガー日本法人、パートナー・小野塚征志氏。SC構造変化を捉えよ

ローランド・ベルガー日本法人パートナー 小野塚 征志氏
ローランド・ベルガー日本法人パートナー 小野塚 征志氏

 新型コロナウイルス感染拡大を契機に、サプライチェーンの見直しを表明する大手企業は少なくない。独コンサルティング大手ローランド・ベルガー日本法人の小野塚征志パートナーは「製造業は固定的なサプライチェーンそのものをリスクと捉えており、今後は調達・販売先が錯綜(さくそう)する『サプライウェブ化』が進むだろう」と説明。その物流を担う企業も、この構造変化に対応することが重要と語る。小野塚氏にコロナ禍が産業界に与えた影響と物流業者が取るべき戦略、新たなコンセプト「ロジスティクス4・0」の意義などを聞いた。(聞き手 岬洋平、梶原幸絵、菊田一郎)

 --新型コロナの物流業界に対する影響をどう見るか。

 「需要減退など物流業界への影響は理解しているが、産業全体を俯瞰(ふかん)したとき、相対的に影響は小さいとは言えるだろう。今回、特に大きな影響を受けているのが『交通』分野。航空会社も貨物では収益を上げているが、旅客は壊滅的だ」

 「ローランド・ベルガーの推定では、2025年時点でのグローバルな人の移動量は、コロナ禍前の想定から10%強低下する見通しだ。在宅勤務が拡大し、海外出張の多くがウェブ会議に置き換わる。移動に関する耐久消費財、端的に言えば自動車関連も厳しい」

 「物流では海運、航空が大きな影響を受けた。グローバルサプライチェーンがダメージを受け、国際輸送が停滞。長期的には回復するだろうが、足元は厳しい。航空輸送では供給減が需要減を上回り、当面高い運賃水準を享受できる。移動総量が10%減れば、ベリー(旅客機の貨物室)スペースも減る。フレーター(貨物専用機)運航会社が強みを発揮できる半面、(柔軟性が低下することで)中長期的には航空輸送の魅力そのものにマイナスの影響があるかもしれない」

 「トラックや倉庫などの国内物流、特に消費財関連への影響はほとんどない。逆にEC(電子商取引)は好調で、ラストワンマイル(最終配送)の需要は急拡大している。特にフィリピンやインドネシアなど、これまでECの普及が遅れていたアジア地域でゲームチェンジ(従来型ビジネスの枠組みが壊れ、新たなビジネスモデルが台頭すること)が起きている」

■CASEが契機に

 --物量減より、質的変化の方が大きい。

 「コロナの影響は、物流業界では業者よりユーザー(荷主)側へのインパクトが大きい。一大ユーザーの自動車産業では大手企業がサプライチェーン見直しを表明している。系列という、固定化されたサプライチェーンそのものがリスクという認識に変化しており、調達先・納品先や輸送時手段をより柔軟に組み替えられるモデルを模索している。今後は取引関係が柔軟化し、状況に応じて最適な調達先・納品先を選べる『サプライウェブ化』が進むだろう」

 --自動車産業のサプライチェーンは緊密に作り込まれており、「チェーン」(連鎖)から「ウェブ」(クモの巣状)への移行には制約も多い。

 「自動車産業は設計段階から『すり合わせ』が行われ、特定の部品メーカーとの付き合いが強固になる。確かに、(コロナ第二波などを考慮し)リスクヘッジのためだけに、サプライチェーンを変更するのは経済合理性に欠ける」

 「ポイントは、既に自動車産業ではサプライウェブ化に向けた『マグマ』(熱源)を抱えていたということだ。それがCASE(コネクトテッド、自動化、シェアリング、電動化という新領域)だ」

 「10年後、EV(電気自動車)が主流の世界になれば、これまでのようなすり合わせではなく、PC・家電のようにパーツの組み合わせにより自動車が生産できるようになる。そうなれば系列は成立しなくなる。販社も含めた、垂直統合モデルが完全に崩壊する。だからこそ、自動車メーカーはEVやMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)に舵を切ろうとしている。見直しを進めていた矢先のコロナ禍で、この動きがさらに加速した」

■クモの巣と標準化

 --顧客の戦略変化は、物流業者側にも大きな影響を及ぼす。

 「サプライウェブ化が進めば、取引構造は錯綜してくる。販売・調達先が増え、少量多品種化すれば、おのずと管理は煩雑化する。メーカーであれば、製造・販売に特化したい。荷主はこの“クモの巣”全てをサポートできる業者を必要としている」

 「対応には、2つの道があると考える。一つには、特定の業界に特化し、原料・部品調達から製品配送まで、上流から下流まで全てに対応できる存在になること。もう一つは、特定の工程に特化し、オンリーワンを目指すこと。プレーヤーの集約が進んだコンテナ船や宅配サービスを想定してもらえばわかりやすい」

 「ただ、宅配と違いBtoB(企業間物流)では必ず見積もりが必要。コンテナ船も実際にはトラック輸送や通関など付帯部分があり、各工程を特注品で組んでいる。このテーラーメードの(BtoBの)流れを、既製服のようにサービスを利用できるようにすることが求められる。つまり物流の標準化だ」

 --企業間物流で標準化のけん引役になるのは誰か。

 「自動車やアパレルのように、スーパープレーヤーがいる産業は荷主がリードする。一方、コンテナ船など特定のプロセスでは、業者がリードすることになる」

■4度目の大変革期

 --物流の装置産業化を見通す「ロジスティクス4・0」を提唱している。

 「20世紀に入り、蒸気船から機船となり、馬車から鉄道・トラックによる大量輸送が可能になった。これがロジスティクスにおける最初の大きなイノベーション(1・0)。1950年代からは、軍需用に作られたフォークリフトが民生でも使われ、コンテナによる海陸一貫輸送が普及した(2・0)。その後、ITによる物流管理のシステム化(3・0)を経て現在、4度目の一大イノベーションを迎えようとしている」

 --具体的には。

 「省人化と標準化だ。ロボット、自動運転が典型だが、現在のトラック輸送では、(ドライバーがトラックを運転する以上)輸送トンキロを増やすには、人を増やすしかない。だが、自動運転が実現すれば、投入人員を増やさず輸送量を増やせる。倉庫もしかり。ロボティクス導入が進めば作業量は人数に比例しなくなる」

 「IoT(モノのインターネット)化が進めば、モノ・トラックの所在地状況などの情報が全てつながるようになり、システム連携するメリットが飛躍的に増える。逆に、つながれない企業は仕事が受注できなくなる。仕事が手に入らなくなる」

■上流変化がけん引

 「標準化と省人化は表裏一体だ。省人化が進み、作業がデジタル化されれば、作業コスト・投入量も可視化される。だから標準化ができる。これにより、輸送・保管・配送といった物流の基本オペレーションは、装置産業化に向かう」

 「コロナ以前は、ロジスティクス4・0は物流・供給サイドのイノベーションにより進むと想定していたが、コロナ後は逆に利用者・需要サイドの変化が大きな意味を持つことになった。(業者側の)人手が足りないからロボットに、ではなく、なるべく人がモノに接する機会を減らしたいからと、荷主がロボットを求める。コロナの物流への直接の影響は小さくても、サプライチェーンの上流に大きな影響を及ぼし、結果、下流も変化せざるを得ない」

 --変化する環境下、成長できる物流企業とは。

 「特定のプロセスで強みを持つだけでなく、物流プラスアルファにより、物流の付帯分野も一括して対応できることが重要になる。例えばEC(電子商取引)では、返品物流だけでなく、回収した商品の(顧客と競合しない市場での)販売まで請け負うような企業もある。流通加工や検品、その後のメンテナンスなど、サービスメニューを増やせた企業がよりもうかる時代になる」

 「MaaSが拡大すれば自動車が所有からリース、シェアに変わるように、顧客の事業形態が変わればデマンドチェーンの重要性がより高まる。製品が売り切りではなく利用、サービスになれば、人気がない製品は利用されなくなり、適宜アップデート、フィードバックが必要になる。使っている人の近くにいなければ分からない情報もあり、例えばカーリースで物流会社が移送・メンテナンスまで請け負い、使われ方に応じたサービスを追加提供することを、顧客に提案することもできるのではないか。物流は上流から下流まで、モノと合わせて情報を運ぶ。情報のプラットフォーマー(PF)としての役割が、物流会社の次の価値になるはずだ」

 「自動運転が進めば、出荷が早い、品質がいいといったサービスの差がほぼなくなる。そうなると国内6万社強のトラック会社はそのまま存続できず、かなりの集約が進むはずだ。バラバラにサービスを提供していた6万社が、数十社に集約されれば、情報の付加価値はさらに高まる」

■外部からの参入も

 --PF側から物流に参入してくるケースもある。

 「物流業界はこれまで見たようにニーズが急速に変化しており、ビジネスチャンスにあふれている。アマゾンや流通大手ニトリなどは自社物流をベースにしながら、外販も強化している。物流の装置産業化から考えると、自動化機器や、不動産デベロッパーなどが、倉庫運営など物流そのものに関与してくるケースも増えてくるだろう。自動車メーカーである日野自動車が、大手運輸企業などと連携して子会社ネクストロジスティクスジャパンを設立し、物流シェアリングに進出したのもその一例だ」

 「物流現場は上(荷主)、下(マテハン、トラックなど機器提供ベンダー)の双方から攻められている。生き残るにはビジネスモデルを変革し、情報のイニシアチブを握ること。逆にそれができれば収益性はさらに高まるはずだ」

  おのづか・まさし 01(平成13)年慶大大学院政策・メディア研究科修了。日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て、07年ローランド・ベルガー入社。19年から現職。43歳。