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モーリシャス座礁事故、長鋪汽船と商船三井が共同会見。運航船社に求められる「社会的責任」とは。

 長鋪(ながしき)汽船(岡山県笠岡市)の関連会社が保有・管理し、商船三井が運航するケープサイズバルカー「WAKASHIO(わかしお)」(20万重量トン級、2007年竣工、パナマ船籍)がインド洋の島国モーリシャス沖で座礁、燃料の油が流出した事故を受け、両社は9日、商船三井本社(東京都港区)で共同記者会見を開いた。会見前半、本船の事故までの経過、対応策について商船三井の安全運航本部長を務める加藤雅徳常務執行役員がスライド資料を使って状況を説明。商船三井は船舶をチャーター(定期用船)している立場で、本来は船舶保有者の長鋪汽船に事故原因についての説明責任が求められる。

 日本の海運会社の多くが船主から船舶をチャーターしている実態もあり、今回のように環境汚染など大規模な事故につながった場合、チャーター船かどうかにかかわらず海運会社側が説明責任を果たさなければならないケースが今後も出てきそうだ。

 運航船社と船主の責任範囲についての質問に対し、商船三井の小野晃彦代表取締役副社長は「船主と共に安全を担保することは用船者の務め。こういった時も船主を精一杯支援していく」と答えた。

 実際、商船三井は同社が24時間で運営する安全運航支援センターで「WAKASHIO」の動静を事故当時から把握、対策について長鋪汽船と情報共有してきたと説明した。

 海運業界では海運会社自身が保有する「自社船」、船主からチャーターする「定期用船」という大きな区分があった。現場をあずかる肝心の船員の配乗について、定期用船は船主が行うため、現場の事故については船主責任という考えもあった。

 しかし、今回のような国際的な油濁汚染の事故に発展した場合、「当該国のモーリシャスや一般社会からみると、企業規模、社会的な知名度の観点から船主に比べ企業基盤が圧倒的に大きい商船三井のような運航船社に事故の経緯や説明が求められてしまうのではないか」(関係者)という認識があるのも事実だ。

 つまり、海運会社にとってひとたび大規模事故が発生すれば、契約上の責任はなくても事故発生から処理まで、定期用船についても自社船同様の対応が求められることになる。それだけ海運会社にとっては船主の選定や定期用船の安全性について、今後、厳しい管理が問われることになる。

 長鋪汽船は岡山県の船主で、バルカーやコンテナ船、タンカーを11隻保有。船員を配乗する自社管理船は「WAKASHIO」だけで、他船の船舶管理業務は外部の船舶管理会社に委託している。今回、奇しくも自社管理している唯一の船舶で座礁事故が発生してしまった。

 一方、長鋪汽船の長鋪慶明代表取締役社長は会見冒頭で「モーリシャスの国民をはじめとする関係者に多大なご迷惑とご心配をおかけし、心より深くお詫び申し上げる」と陳謝。その上で、「油の流出・拡散防止と漂着した油の回収に全力で取り組む」と説明した。商船三井は現地に社員を派遣して対応に当たる計画を明らかにした。

 商船三井の小野副社長も用船者の立場でお詫びの言葉を述べた上で、「被害を最小限に食い止めることに全力を尽くす。解決まで誠意をもって対応していく」と語った。

 会見では商船三井の業績への影響に関する質問も出た。小野副社長は「直接的な資金流出はない」と回答。また、本船の不稼働による事業への影響についても「当社の類似船隊のフリートの中で対応できる」と説明した。 

■悪天候で押し流される

 「WAKASHIO」は7月4日に中国を出港。シンガポール経由でブラジル方面に向けてインド洋を航行中、現地時間7月25日午後7時25分にモーリシャス島の南東0.9マイル沖で座礁した。 

 座礁後ただちに長鋪汽船は商船三井と連携し、サルベージ会社などに協力を要請し離礁作業に当たったが、波浪が強く作業が難航。機関室底部が損傷し浸水が発生。8月6日に燃料タンクに亀裂が生じ燃料油が流出した。

 本船にはインド人、スリランカ人、フィリピン人の乗組員20人が乗船していたが、全員無事に救助され人的被害はなかった。貨物は積載していなかった。

 本来の航海計画では、モーリシャス島の南方約20マイルを通りブラジルに向かう予定だった。座礁の原因は調査中だが、「悪天候による強い風やうねりで北方へ押し流された可能性がある」(加藤常務)という。

 船内に残っていた燃料油は約4000㌧(重油約3800㌧、軽油約200㌧)。約1180㌧の重油を積んでいた右舷側の燃料タンクの一つに亀裂が生じ、推計で約1000㌧の重油が流出した。他の燃料タンクに破損は確認されていない。

 漏油による環境被害を食い止めるためにオイルフェンスを設置し、流出油の流れを制御している。同時に船内に残っている燃料油の抜き取り作業にも着手。これまでに約500㌧の燃料油を抜き取った。

 長鋪汽船は保険会社を通じて現地の油回収業者を起用。油流出対策の専門家も現地に送り込む予定だ。商船三井も「さまざまな専門家の知恵をお借りする。社内の人材も現地に派遣して対応する」(小野副社長)。

■会見の要旨(一問一答)

長鋪汽船の長鋪慶明代表取締役社長、商船三井の小野晃彦代表取締役副社長、加藤雅徳常務執行役員の会見での一問一答(一部抜粋)は以下の通り。

―本船「WAKASHIO」に対する長鋪汽船、商船三井の立場はどの様なものか。

長鋪氏「当社(長鋪汽船)は船主の立場。本船を建造、所有し、乗組員を乗船させ、荷物を運べる状態にする。それにより、運航者である用船者(=商船三井)に提供している」

小野氏「当社(商船三井)は長鋪汽船から船を定期用船している。一定期間、船をお借りし、荷物を付けて輸送する運航者だ。『運航』とは船を実際に動かしているのではなく、『どこの港へ行ってください』などのお願い、指令をすることを指す」

―事故の賠償はどのようなものになるか。

長鋪氏「今回の油濁事故については、船主である当社の方で日本船主責任相互保険組合(ジャパンP&Iクラブ)の保険を付保している。その保険で、カバーされる運びになる。だが、現状、被害の様相、規模感がはっきりしていない。まずはこれ以上の油の流出、拡散を防ぐことと、漂着油を回収することが重要だ。これらに全力を尽くす」

―今回、1000トン以上の油が流出したとされる。周囲の環境への影響をどう受け止めるか。

小野氏「このエリアは野鳥の保護区付近で観光産業が盛ん。燃料油流出は環境へ甚大な影響を及ぼすと深刻に捉えている。流出油を少なく抑えるとともに、除去に向け専門家チームと協力する。専門家チームとは、船主さん経由の保険会社のチームや救助会社のチームなどだ。当社も近々社員でチームを作り、現地へ派遣し除去活動に従事する方針だ」

長鋪氏「現状、ジャパンP&Iクラブ経由で手配された現地の油回収会社が作業に従事している。それらの業者の方や、モーリシャスの現地の皆様の協力を得ながら、漂着油の回収が行われている」

―今回の事故に新型コロナウイルスで船員交代が停滞していることが影響した可能性は。

長鋪氏「本船の長期乗船者は2人。ただ、それ以外は船長含め、半年程度の乗船期間と認識している。本船は大型船なので、船内ストレスは小型船に比べて少ないのではないか」

―本船にはフィリピン人、インド人、スリランカ人と3カ国の国籍の船員が乗船していた。3カ国出身船員の混乗は通常のオペレーションなのか。

長鋪氏「インド人とスリランカ人は非常に近しい、親しい間柄。配乗に際しては、同一と考えてもいいと聞く。フィリピン人船員は世界的にも多数乗っている。3カ国の船員が乗っていたことで大きな問題は生じなかったと思う」

―国際社会の動きは。

長鋪氏「近日中にフランスの油回収会社が到着する。モーリシャス政府からフランス政府に支援要請があったようだ」

小野氏「日本では国土交通省、外務省と緊密な連絡を取っている」

―事故後の対応はどの様なものだったか。

加藤氏「救助業者が本船に乗船できたのが7月31日。オランダからの手配だったので、モーリシャスに入ってからのPCR検査もあり時間がかかった。オイルフェンスを展張したのは油が流れ出る前ではあるが、8月に入ってから」

「今(9日)は本船に油を抜き取る船を横付けできたので抜き取り作業が行われているが、2、3日前まではできなかった。その間は、船を浮上させる方法を考えていた」

長鋪氏「当初、オイルフェンスについて展張が不可能な状況だった。波の高さが4メートル前後あったので、普通にオイルフェンスを張ってもその上を乗り越えてしまう可能性もあった」

「対策について周辺の環境に及ぼす影響が大きい方法は極力しないよう指導されている。例えば、乳化剤などは使用していない。当局からの指示、許可があるまでは使用してはならないと本船にも指示している」

―座礁の原因は。

加藤氏「本件ではモーリシャス島に近寄り過ぎた。その原因をこれから究明する。航海計画によると、同島からは10から20マイル以上離れる計画だった。これから船長以下にインタビューし明らかになるだろう」

―今後の油回収の見通しは。

長鋪氏「油の抜き取り作業は本船に横付けできるタンカーをもう1隻要請している。加えて、現在までに抜き取った油を積んだタンカーが、別の船に移し空にした上で、再度本船に横付けする予定だ」

―通信記録装置の回収状況は。

長鋪氏「航海記録については、モーリシャス当局などしかるべきところに提出するよう指示した。コピーもあるので、紛失などはない。ただ、それを今、われわれが手に入れるのは難しい状況。船長がサルベージ会社の方に託したと聞いている」

―乗組員らの下船後の動向は。

長鋪氏「事故後、乗組員らは2班に分かれ下船した。そして、新型コロナウイルスの検疫で、隔離期間があり、その期間は外部との接触ができなかった。昨日(8日)、最初のチームが隔離期間を終えて、施設から出てきた。ただ、今後も当局や保険会社の事情聴取が行われるので、われわれも接触できない。電話も禁止されている」

―船内機器に不具合はあったのか。

長鋪氏「機器類の故障は聞いていない」

―長鋪汽船の船舶管理の現状は。

長鋪氏「当社の保有船は全部で11隻。そのうち本船『WAKASHIO』のみを自社管理していた。残りの船は外部に委託している」

―商船三井は今後用船へのリスクをどう考えるか。

小野氏「用船契約での船主と用船者の責任はクリアになっている。とはいえ、当社は船主さんあっての運航船隊と考えている。これまでも安全運航の取り組みを船主さんと共に、勉強を重ねてきた。船主さんと一緒になって安全を担保していくのが用船者としての当社の務め。船主さんを精いっぱい支援していく」

―直近で商船三井に重大海難事故対策本部が立ち上がったのは。

小野氏「2013年にコンテナ船の折損、沈没事故があったとき以来だ。その前は06年になる」

―商船三井は長鋪汽船に賠償を求めないのか。

小野氏「現時点では共同して被害を食い止めることに注力している。賠償については申し上げる段階にない」

―商船三井は安全運航支援センターで本船の動静をリアルタイムで確認できていたのか。

加藤氏「トラブル発生当時から安全運航支援センターに情報が入り、関係部署にすぐ報告した。ただ、対象となる運航船は全部で約800隻。リアルタイムといっても、データは1秒おきのものではなく、数時間おきのもの。特に『これからどこへ向かっていくのか』について、全部の船の動静は把握できかねる。そこまで詳細に見ることができていないのが現実。ただ、自社船と用船で運航状況の把握のレベル感に違いはない」

―他の運航船への注意喚起などは。

加藤氏「用船、仕組み船関係なく全船に対し、『危険なところには近付かない』という基本を改めてリマインドする。それを記したサーキュラーを発信することを考えている」

―本船に残っている油の量は。

加藤氏「もともと重油と軽由合わせ約4000トンあった。軽油が約200トン、それはそのまま残っている。約3800トンの重油のうち、約1000トン超が流れ出たとみられる。残り約2800トンのうち、横付けしたタンカーが抜き取ったのは約500トン。残りは、単純計算で約2300トンとみられる」