MariTech Webinar Japan 2020 <日英同時配信>
 印刷 2020年07月29日デイリー版1面

インタビュー 東洋船舶・双日マリン提携】(上):東洋船舶社長・田中信之氏。業界横断的「垂直統合」も必要

東洋船舶社長 田中信之氏
東洋船舶社長 田中信之氏

 日本の海事クラスター再生に向け、三井物産子会社の東洋船舶と、双日系の双日マリンアンドエンジニアリングが業務提携に踏み切った。商社の枠を超えた動きにつながった背景、狙いを両社首脳に聞いた。

 --東洋船舶の事業概要はどうなっているか。

 「当社は三井物産によって1988年に設立された。三井物産グループが推進する船舶に関するビジネスで、専門的な機能やサービスを提供することが役割だ。具体的には三井物産と一体となって、用船仲介、運航サービス、中古船売買仲介、舶用機器販売のほか建造監督や技術コンサルティングなど各種テクニカルサービス、三井物産関連船舶保有会社への決算・監査業務などコマーシャルマネジメントを行っている。従業員数は海外分を含め140人だ」

■舶用機器で貢献

 --双日マリンアンドエンジニアリングと提携した狙いは。

 「これまでも船腹供給過剰による不況があったが、今回は特に造船で状況が異なると考えている。前回の不況は円高が重なったが、今回は円高のダメージがないのに造船各社の業績が悪化しているほか、今年に入り新型コロナウイルスの影響で新規受注が事実上ストップするなど、追い打ちをかけた」

 「このような造船業界の状況を踏まえ、従来の取り組みとともに、切り口を変えた対応を考えた。対象は舶用機器。日本には高い技術力を持つ舶用機器メーカーがたくさんあり、造船業を支援する上で大事な役割を果たすためだ。双日マリンアンドエンジニアリングは、舶用機器に強く、多くの国内外メーカーと取引がある。三井物産および当社は新造船ビジネスを通じ豊富な実績と強固な関係がある。両社が同じ志を持っており、舶用機器ビジネスから日本の海事産業に貢献することを目指した」

■造船業盛り上げ

 --舶用機器から、例えば造船業をどう盛り上げるのか。

 「足元では自動運航、電動化や、燃料の転換などを含む環境負荷軽減などの技術的テーマがある。造船会社の船型開発能力だけでなく、関連機器が果たす役割が大きい。この部分が強力になると今後も日本造船は中国、韓国と競合できる。IMO(国際海事機関)は2050年までに、国際海運からのGHG(温室効果ガス)総排出量を08年比50%削減するとの目標を掲げた。これに対応するには造船所だけでは不可能で、エンジンを筆頭に舶用機器メーカーの役割が重要になる」

 「日本には技術力が高いメーカーが多いものの、会社の規模は欧州大手と比較し大きくない。個社では種々の制約があり、できない技術開発などを、一緒になって取り組むことができれば良いと考える」

 「技術開発では、『総論は賛成だが、各論は反対』ではだめで、各論で勝負したい。手始めとしていくつかアイデアがあるが、奇をてらったことではない。テーマの一つは環境。具体的なものを形にしないと掛け声だけで終わる。特定のメンバーでプロジェクトをいくつか立ち上げることも良いかもしれない」

 「日本では、造船会社が自身で設計した船をいかに効率よく低コストで建造するかという部分に長年注力してきた。これは海外造船にない強みだったが、近年の中国、韓国造船の規模の大きさで勝負するビジネスモデルに苦戦している」

 「同業者間の水平統合で規模で勝負することも選択肢としてあるが、造船だけでなく舶用機器メーカー、船主、オペレーターなどが合併せずとも垂直統合してチームを組んで取り組むことも考えられる」

■SI組成へ支援

 ――提携の目的に「日本版のシステムインテグレーター(SI)」組成を挙げているが、その理由を聞きたい。

 「『システムインテグレーターとは何か』というところから始まった。欧州を見ると、複数の機器メーカーを傘下に組み入れ、パッケージで売る、またはエンジニアリングを含めプラントとして売る会社がこう呼ばれているようだ。欧州造船は、パッケージまたはプラントとして売られるものを、規格化された既製品として使う。こういうサービスを提供する事業者は日本にはない」

 「日本では、造船会社が頂点に立ち、舶用機器メーカーがサポートする形だった。かつては造船会社がシステムインテグレーターの機能を持っていたが、効率建造などそれ以外の部分に注力せざるを得ず、その機能が薄れてきた。海事産業を構成するプレーヤーの一つにシステムインテグレーターがなることは十分あり得る。われわれはシステムインテグレーターを組成する手伝いをしたい。当社自体がシステムインテグレーターに参画する機会があれば検討したい」

 「業界関係者にヒアリングすると、日本でもシステムインテグレーターの需要はある。では、日本版のシステムインテグレーターが提供するもの、できること、期待されることは何か。欧州をまねるのか、日本独自のものとするのか。このような点をまず検討する」

■機器主体に展開

 ――舶用機器関連事業を今後どう展開していくか。

 「足元では、当社の事業は三井物産グループの『船舶そのもの』に関するビジネスが主体。舶用機器事業は、その中で新造船および友好船主保有船向けに販売することが中心で、今は環境に関するバラスト水処理装置や、SOx(硫黄酸化物)規制に対応するスクラバー(排ガス浄化装置)に注力している。今後は、機器を主体としたバリューチェーンでビジネスを展開できないか考えている」

 ――海事産業は今後どうなると考えるか。

 「モノとヒトの移動が今後どうなるのか、しっかり見ていく必要がある。モノは荷物で、新型コロナウイルスで再確認したが、国同士が互いに依存していることは変わりようがない。サプライチェーンの見直しなどはあるものの、海上輸送はなくならない。一方で、ヒトの移動の制約などで、デジタル化、自動運航化、電動化などが加速され、間接的にモノの移動に影響を与えるかもしれない」

 「業界再編が進んでいるが、造船会社同士のような水平統合に加え、造船、舶用機器メーカーなど垂直統合も起きると考える」

 たなか・のぶゆき 88(昭和63)年三井物産入社。19年から現職。