船員支援キャンペーン第2弾
 印刷 2020年07月22日デイリー版1面

新本部長に聞く 激変期の事業戦略】(3):川崎汽船常務執行役員 情報システム、AI・デジタライゼーション戦略ユニット統括・新井大介氏。「安全」「環境」「品質」軸にDX推進

川崎汽船常務執行役員 情報システム、AI・デジタライゼーション戦略ユニット統括 新井大介氏
川崎汽船常務執行役員 情報システム、AI・デジタライゼーション戦略ユニット統括 新井大介氏

■組織横断的に横串

 --新本部長としての所信は。

 「これまでは主にコンテナ船事業部門を歩んできたので、必ずしもICT(情報通信技術)・デジタル関連を専門にしてきたわけではない。それにもかかわらず私がチーフ・インフォメーション・オフィサー(CIO)に任命されたのは、各部門が個々に取り組んできたICT関連の案件について組織横断的に横串を通し、全社的に一体感をもってまとめ上げていくためだと思っている」

 --組織改編でAI(人工知能)・デジタライゼーション関係の専門部署を再編した。

 「当社は2019年1月にAI・IoT(モノのインターネット)などデジタル技術などを活用したサービス構築や、顧客・外部機関と協働した新ビジネスモデル構築のため、『AI・デジタライゼーション推進室』と『マーケティング戦略室』という2つの専門組織を設置した」

 「それらを今年4月1日付でAI・デジタライゼーション戦略グループに統合して格上げし、より機動的に新技術を活用したサービス構築などに取り組める体制に改編した」

 「CIO兼ユニット統括としては、AI・デジタライゼーション戦略グループのほか情報システムグループを担当する」

 --各グループの役割は。

 「情報システムグループは基幹システムやネットワークの管理など。在宅勤務でTeamsを使ったオンライン会議が盛んだが、こうしたITインフラを円滑に社内で利用できるよう整備するといったハード的なものが中心。他方、AI・デジタライゼーション戦略グループは、AIやデジタル技術などを使っていかに新しいビジネスツールやモデルなどを生み出すかといういわばソフト的な部分となる」

 --川崎汽船としてAI・デジタライゼーション戦略の方向性を聞きたい。

 「当社は『安全』『環境』、そして『品質』の3つを全社挙げて重視するキーワードとして掲げている。われわれのビジネスは安全運航と環境への取り組みがあって、その結果もたらされるのが高品質なサービスだ。いわば安全と環境の上に品質が立脚した二等辺三角形だといえる。海運会社のAI・デジタライゼーション戦略としては、3つのキーワードに沿って進めていく」

 「海上輸送の分野ではやはり、自律運航などの実現に向けてどのようにデジタル技術を活用できるかが鍵となる。当社で自律運航に向けた研究に取り組んでいるのは主として先進技術グループ。ただし、自律運航にはIoTなどを活用したさまざまな新技術を実装する必要がある」

 --技術や情報システム分野での強みは何か。

 「川崎重工業グループと共同開発した統合船舶運航・性能管理システム『K-IMS』は、非常に優れたプラットフォームだと思っている。運航データ収集・監視システムを核に、パフォーマンス解析システム、最適運航システムを統合したもので、安全運航管理と経済運航の高度化を支援するツールだ。これで収集したデータを分析・活用していけばいろんな可能性が広がる」

 --今後、AIデジ戦略を推進していくための体制は。

 「当社では4月から組織横断的に2つのプロジェクトがスタートした。一つは『安全環境支援技術プロジェクトチーム』、もう一つは『代替燃料プロジェクトチーム』。前者は私が、後者はエネルギー担当役員がトップを務めている」

■K-IMS拡大へ

 --安全環境支援技術プロジェクトの中身は。

 「現段階では大きく分けて、▽K-IMSの普及▽自動カイトシステム「Seawing」の開発促進▽デジタル技術を活用した船上の働き方改革-この3項目となる。CIOとして密接に関わる、K-IMSと船上の働き方改革の2つについて述べたい」

 「K-IMSについては、同システムで収集した運航データを分析し、安全・経済運航に向けた最適ルート選定や故障の予知診断などに取り組んでいる。K-IMSは優れたシステムだが、あくまでも基盤システム。ここで集めた情報をどうやって活用し、それを全社的に共有していくことが鍵となる。自律運航の実現含めた安全、経済運航の深化に向けさまざまなデータ類を収集、分析してゆく」

 「K-IMSの課題としては、搭載船の拡大だ。当社運航船隊470隻のうち、K-IMSを搭載しているのは共有船などを除いた自社管理船160隻ほど。データが多ければ多いほど成果は大きいので、今後は用船などへのK-IMS搭載普及にむけて取り組んでいきたい」

■船上の働き方改革

 「船上の働き方改革では、デジタライゼーションを切り口に、何がこれから必要になるのかということをしっかり詰めていく。ビッグデータを使った故障予知などもあるが、そうした本船上のデータを解析して修繕などに結び付けるには、陸上の支援が不可欠。それには適切な通信環境を整備しないといけないし、船舶との連携に向けた課題もある。各部門との連携も重要だ」

 --プロジェクトチームの会合の頻度は。

 「プロジェクトはAIデジ、先端技術、海事人材、安全品質管理や営業部門の各グループからチーム長以上が集まって構成され、個別の案件については月数回、プロジェクト全体については隔月1回のペースでそれぞれ会合を開いている」

■過去の経験教訓に

 --取り組むべき施策の中で課題は。

 「所信に述べた通り、IoT(モノのインターネット)やAI・デジタライゼーション戦略の全体最適を追求するためにいかに横串を通していくかが重要だ。海運会社は各営業部門が収支を管理しており、それぞれの施策の中で費用対効果を追求している。ただし、一事業部門で採算を取れなくても、全社的に見れば将来性のある案件がある場合もあるので、それをいかに見つけて育てていくか。特にIoT関連では多いのではないか」

 「私自身は2000年代前半に情報システムグループ(ISG)のITストラテジーチーム長として、コンテナ船事業に関するEコマースや電子BL(船荷証券)などのプロジェクトにも関わっていた。当社は当時、米国に100%出資のIT子会社を設立し、大掛かりなグローバルIT戦略を描いていたが、私もこの子会社にもいた。最終的に米IT子会社は解散したが、こうした経験があることも、AI・デジタライゼーション戦略のユニット統括に抜擢された理由だと思っている」

 「当社はどちらかといえば地味な会社で、外部向けのアピール宣伝もそれほど力を入れてきたわけではない。それでも海運会社として安全や環境にはしっかり取り組んできた自負はある。今後はもっと安全や環境、品質に立脚しながらAI・デジタライゼーション戦略をしっかり内外に発信していきたい」

 (写真は昨年11月撮影)

 あらい・だいすけ 83(昭和58)年慶大法卒、川崎汽船入社。15年執行役員、17年常務執行役員。18年からのコンテナ船事業ユニット統括に加え、20年4月から現ユニット統括とCIOを兼務。61歳。