船員支援キャンペーン第2弾
 印刷 2020年07月13日デイリー版1面

インタビュー コロナ禍対応】井本商運社長・井本隆之氏、攻守一体で危機乗り切る

18年に就航した600TEU 型船「ながら」
18年に就航した600TEU 型船「ながら」
井本商運社長 井本隆之氏
井本商運社長 井本隆之氏

 新型コロナウイルス感染拡大により、内航フィーダー業界も大きな打撃を受けている。外航コンテナ船社のフィーダー輸送の自営化が進むなど、事業環境も悪化している。最大手の井本商運は緊急対策として係船を始め、固定費圧縮を急ぐ。ただ一方では600TEU型の新造船計画、国内貨物の集荷強化を進め、「攻め」の姿勢も継続。攻守にわたる取り組みにより、将来の成長に向けて改めて基盤を固める。(聞き手 梶原幸絵)

 --2019年度を振り返って。

 「コンテナ輸送量は前年度比2%減の59万1000TEUと、東日本大震災の起こった11年以来、8年ぶりの前年割れだった。ただ18年度に発生した西日本豪雨の災害廃棄物輸送や鉄道貨物代替輸送の反動減があるので、それを除けば成長基調を維持できた」

 「地域別に見ると、京浜港をハブとする東日本航路と京浜-阪神-九州などの長距離航路の輸送量は、前年度並みの23万6000TEUだった。外航コンテナ船社の航路改編などで輸送量が増えた航路もあったが、名古屋航路の空バン輸送の減少が響いた。阪神港ハブの西日本航路の実績は、3%減の35万5000TEU。自動車関連輸出の不振や外航船社の自営フィーダー化や韓国船社の釜山フィーダーとの競合が影響した」

 --新型コロナウイルス感染拡大の影響は。

 「4月の輸送量は前年同月比25%減、5月は30%もの減少だ。通年では輸送量が20%前後減少し、業績も赤字に転落する見通しとなっている」

 「輸入主力の航路は比較的影響が小さいのに対し、自動車関連の輸出貨物が大きく減っている。下期の荷動き回復を期待しているが、米中対立の先鋭化や消費の低迷、企業のサプライチェーンの見直しなど悪材料が多い。コロナ後も『元に戻る』と見るのは難しい」

■船隊規模を調整

 --どう対処するか。

 「今年度はいかにコストを抑えて生き延びるかが重要になる。緊急対策として船隊の調整に着手し、自社船の売却、船費・維持費削減を検討している。6月には係船を始めた。当社の船隊は600TEU型2隻、400TEU型3隻、200TEU型15隻、100TEU型7隻の計27隻。このうち600TEU型1隻を係船し、さらに200TEU型船の係船も検討している」

 「自社船から係船し、1カ月単位で荷動きを見ながら対象船舶や係船期間を見直す。需要に応じてホット(船員を乗せたまま)・コールド(船員を降ろす)のレイアップ(係船)を使い分けていく。また、国際コンテナ戦略港湾の特定港湾運営会社を通じた支援を行政に要望する」

 --社内の感染対策は。

 「2月末に社長を本部長とする対策本部を設け、マニュアルなどを作成し対策を取ってきた。全船のマスクや消毒液の在庫を調べ、自社船・用船にかかわらず不足があれば支給した。当社は新型インフル等特措法の指定公共機関。従業員の安全を確保すると同時に、事業を継続し社会的使命を果たしていかねばならない」

 「在宅勤務のために社員全員にノートパソコンと携帯電話を支給し、自宅から社内システムに接続する体制を3月までに一気に整えた。4月半ばから5月までは社員の出社率を2-3割に抑え、6月からは5割に切り替えている。ウェブ会議や時差出勤も導入した」

 --足元の事業環境をどう見るか。

 「韓国船社や、内航業界内の競争激化に加え、最近は外航船社のフィーダー輸送の自営化が進み、大きな逆風になっている。外航船社の自営フィーダーの投入船は1000TEU型以上が主力だ。当社の運航船は100-200TEU型が中心なので、大型化を進めて競争力を強化し、将来的には肩を並べるレベルまで持っていきたい」

 「中小型船によるきめ細やかな地方港ネットワークも強みとしていく。韓国フィーダーや外航船社の自営フィーダーの船が寄港しない港の貨物も、取りこぼしのないようにする」

■600TEU型新造発注

 --中長期的には運航船を大型化し、中小型船を併用する方針に変わりはない?

 「係船により船隊は一時的に縮小するが、新造船が竣工する来春以降は強化となる。将来を見据えて大型化や増配を続けていきたいという思いはある」

 「来年3月には200TEU型船が竣工する。昨年売船した100TEU型を大型化してリプレースするものだ。来年2月にも、船主が一昨年売却した100TEU型の代替船が完成する」

 「ただし、計画していた1000TEU型船は600TEU型にサイズダウンして発注する。大型船になるほど京浜、阪神のハブ港で複数船社のコンテナを積むためのバースホッピングが増え、運航効率が悪化する。現実的には無理があると判断した」

 --600TEU型の竣工時期は。

 「旭洋造船に夏ごろ発注し、22年6月に竣工する予定。京浜-神戸-門司-博多航路に投入し、400TEU型と600TEU型で運航していた同航路を600TEU型2隻体制に拡充する」

 「新造船では、既存の600TEU型からさらに省エネと性能向上を図る。ゲートラダーやフル電子制御エンジン、垂直バウなどを採用し、改良型の球状船首と垂直バウを組み合わせる。国土交通省と経済産業省の内航船の運航効率化実証事業にも採択された」

 --コロナ禍の営業活動への影響は。

 「顧客とはウェブ会議も活用し、コミュニケーションを取っている。営業面では、特に国内の動脈・静脈貨物の集荷で攻めの姿勢を継続する。化学品や発電所燃料、静脈物流を中心に取り組みを強化する」

 「動静脈貨物の輸送は右肩上がりの成長が続いている。災害廃棄物を除けば、昨年度の輸送実績は前年度比32%増の4万2254TEUに急伸し、輸送量全体に占める比率は8%に上昇した。工場間輸送などを行う専用船航路が2航路始まり、計3航路に増加した」

 「トラック輸送されている国内貨物のコンテナ化を促し、フィーダー輸送で構築したネットワークを活用して輸送する。その集荷営業の成果が出てきた。昨年4月には、営業部をフィーダー輸送を担当する『企画営業課』と国内の動静脈貨物に特化する『海コン便事業課』に分割し、担当を明確化した」

■収益構造改善へ

 --この数年は、業容の拡大に合わせて組織面も強化している。

 「2014年に船舶部、17年には安全監査室を新設した。18年に東京営業所の機能を運航部に統合後、昨年5月に改めて2課に再編。今年2月には新たに工務部を設置した」

 「安全運航と運航効率の向上に重点的に人を充てている。従業員数は計91人に増え、そのうち陸上社員は57人、船員は34人。17年からは毎年自社船員を採用しており、10月にも新卒者が6人入社する。今後は船員の教育体系も整備する」

 「中長期的な課題としては、収益構造の改善も挙げられる。昨年度の売上高は前年度比3%減の約118億円だが、利益は大幅に減少した。この10年、売り上げは輸送量の増加とともに伸びてきたのに対し、フィーダー運賃の下落と燃油高のために利益の減少傾向に歯止めがかからない」

 --改善の方策は。

 「やはり運航効率の向上だ。特に南本牧埠頭を中心に再編が本格化する横浜港では、再編をテコに運航の効率化とサービスの改善を探りたい。バースホッピングを増やすことなく、積極的にフィーダー貨物の集荷拡大を図る。横浜に限らずハブ港ではターミナルの構造上、バースホッピングを余儀なくされる。各港湾管理者を通じ、効率化を働き掛けていく」

 「国内の動静脈貨物の集荷も必要だ。中長期的な視野に立ち、専用船航路開設に向けた取り組みを続ける」

■海陸で情報連携

 --新型ウイルスとの共生のため、デジタル化が加速すると言われている。対応は。

 「デジタル化には以前から力を入れており、間もなくウェブサイトも一新する。当社のサービスや安全・環境への取り組み、ISOコンテナを使った国内輸送の提案などさまざまな情報を発信し、サイトを通じて営業するイメージだ」

 「昨年4月に本格稼働した新基幹システムにより、部門別の採算など社内の見える化が進んでいる。データをリアルタイムに分析し、営業戦略や業務の効率化に生かす取り組みも始めた。運航船にもウェブベースのシステムを導入し、陸との情報連携を始めている」

 --日本財団の無人運航船プロジェクトに参画する。

 「商船三井が代表企業のコンソーシアムに参加し、当社の船を使って実験航海を行う。安全運航と乗組員の労務負担の軽減につなげ、内航海運産業全体の持続的な発展に貢献したい」

 いもと・たかゆき 82(昭和57)年井本商運入社。89年営業部長、90年取締役、91年常務取締役、96年代表取締役専務取締役、01年6月から現職。60歳。