船員支援キャンペーン
 印刷 2020年07月10日デイリー版1面

インタビュー 異分野から参入 海事イノベーション】日本財団常務理事・海野光行氏、無人運航船、物流の主役に

「MEGURI2040」
「MEGURI2040」
日本財団常務理事 海野光行氏
日本財団常務理事 海野光行氏

 日本財団が支援する日本連合による無人運航船の大規模プロジェクトがスタートした。海野光行常務理事にその背景、今後の展開について聞いた。(聞き手 浅野一歩)

 --無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」の狙いについて。

 「日本の海事産業を元気にする夢のあるプロジェクトを実行しようということで企画した」

 「『技術開発共同プログラム』で行われる実証実験を踏まえて技術の底上げを図り、制度やシステムの国際基準化・標準化の先導を日本が担っていく。さらに無人運航船が安心・安全であることを広く社会が認知することによって、同分野により多くの企業が参入できるようにする」

■経済効果1兆円に

 --実現した場合、どのような経済効果が期待できるのか。

 「2040年に内航船の50%が無人化した場合、年間約1兆円の経済効果があると試算した。無人運航船は、これまで人を介してきた国内の物流システムを根本から変える。運航頻度が高まり、便利な物流手段の一つになれば、トラックを使用していたような小口輸送のモーダルシフトが進む。船体も大量生産に適した標準化された形になれば、メンテナンス費用も安くなるだろう」

 「運用するのは船会社とは限らないし、船が簡単に造れるようになれば、造船会社が船を造る時代ではなくなってくるかもしれない」

 --自動化で運航の柔軟性が向上する。

 「日本は少子高齢化と人口減少によって、あらゆる分野で人手が不足している。特に船員はなり手が少なく、内航海運は50歳以上の船員が5割を占めており危機的な状況だ」

 「離島に関して言えば、有人島が約400あるが、約2割が1日1便以下となっている。有人島が少なくなれば、安全保障上の問題も出てくるだろう」

 「しかし、船舶が無人でヒトやモノを運べるようになれば、人手不足で本数を増やせなかった離島航路の船舶の輸送頻度も変わっていく。高齢者の通院のような社会インフラや、河川や瀬戸内で観光客の移動などでも利用できる。首都圏だと羽田空港と東京ディズニーランドなどのような有名観光地を直接結ぶ航路を無人運航してもいい」

■25年にも実用化へ

 --どのようなロードマップを描いているのか。

 「21年度までに世界で初めて既存航路で無人航行を実証。大阪・関西万博が開催される25年には無人運航船の商用レベルでの実用化が可能だと考えている。水路に囲まれた万博会場で実際に人を輸送することも想定している」

 --船の運航を自動にするメリットは大きい。

 「無人運航船の開発は、車の自動化と同じで、事故を少なくしたいというのが出発点。海難事故の原因は7割から8割がヒューマンエラーで、未然に防ぐためには機械の力を借りる必要がある」

 「世界的に人が行ってきたものがAI(人工知能)や機械に置き換わっており、船の世界も決して例外ではない。多くの分野で自動化が進んでいる自動車のように、AI技術を持った企業の参入が必要不可欠なのだが、国内の海事産業は遅れている」

 --国際競争に劣後するという危機感がある。

 「イノベーションを起こすためには、異分野の参入が不可欠だ。造船・海運といった一つの業態だけでは極めて困難。大きいところも小さいところもひっくるめて、技術革新と社会実装を進めないといけない。自律航行の研究で先行するノルウェーのトロンハイムには、AIの専門家が世界中から集まって開発に取り組んでいた」

 「よく言われる海事クラスターは、『海事』だけの集団であって、もはや意味がない。今後は海事クラスターに限界があると思っている人たちが中心になってくるだろう。社会はどんどん進化しているので、時代の流れに取り残されないよう、海事産業も変化してほしい。無人運航船の挑戦が異分野の連携や、海事産業の活性化につながることを願っている」

■問われる船員育成

 --船員の世界はどうなるのか。

 「もちろん船員の養成機関や訓練機関の在り方を抜本的に変えなくてはいけない。船員が不要という話ではなく、例えば、船舶のモニタリングや遠隔操縦など船員が必要な経験・スキルが陸上で運航管理を行っている人にも求められてくる。働き方が変わるなら、カリキュラムも変える必要がある」

 「陸上での船舶を遠隔で運航するような新しい業務も出てくる。船員資格も変わってくるので、日本が先んじてIMO(国際海事機関)などに提案する。既に当財団では国際海事大学連合を主導し、無人運航船時代の新しい船員の在り方を検討している」

■日本から世界へ

 --制度の整備は重要だ。

 「無人運航船の実証実験が終わり、社会の認知が追い付いても、制度が追い付かないと意味がない。まだ法律、保険、インフラ面で課題が残っている。今回の実証実験は、海域利用で国土交通省や海上保安庁の協力も得ており、制度面の改革も進めてほしいというお願いもしている」

 「実験で集めたデータをオープンにすることで、今後の法整備や無人運航に対応した港湾整備につなげてほしい。船舶の自動化をつながりとして、産学官が一体となった連携をすることで、世界へ打って出る」

 --日本財団が果たす役割は。

 「海事産業は島国の日本にとって、なくてはならない基幹産業だ。しかし、中国・韓国との競争が激化している上、新型コロナウイルスによって厳しい情勢が続いている。当財団の前身は日本船舶振興会。海事産業の発展に向けた支援は当然しなくてはいけない」

 「記者会見の映像を見た小学生が目を輝かせていたという話を聞いた。無人運航船プロジェクトは子どもたちに夢を与える部分がある。海事産業をかっこ良く見せ、次世代に海に引き継ぐということも大事なのではないか」

 「私たちは普通の企業にはできない、1世代や2世代といった100年先を見据えた計画を立てていく必要がある。長いスパンを考えながら、エンジン役やネットワークハブになれる存在だと思っている」

 うんの・みつゆき 90年日本財団入会、05年6月海洋グループ海洋安全チームリーダー、09年4月海洋グループ長を経て11年4月から現職。