個人在宅支援プラン
 印刷 2020年06月30日デイリー版1面

インタビュー 供給責任果たす】MSCジャパン社長・甲斐督英氏。デジタル追い風に関係強化

MSCジャパン社長甲斐督英氏
MSCジャパン社長甲斐督英氏

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、需要の先行きが不鮮明となり、各アライアンスが減便を進めてきた。一部では物流の混乱も生じている。スイス船社MSCの日本法人、MSCジャパンの甲斐督英社長は「(世界2位のコンテナ船社として)供給責任を果たすのがMSCの役割」と語る。安定したスペース供給により、荷主のサプライチェーン維持に貢献する。MSCジャパンはコンテナ船業界ではいち早く完全在宅勤務を実施するなど、積極的に環境変化に対応してきた。対面営業が難しい中、オンライン会議の特性を生かした顧客との関係強化も進める。(聞き手 岬洋平)

 --事業環境が大きく変化する中、MSCが果たすべき役割とは。

 「一番大きい役割は、供給責任だろう。ほぼ全プレーヤーが減便する中で、平時同様、マーケットシェアの15―16%前後のスペースを供給していく。これがマーケット、世界の消費者に対するMSCの約束だ。もちろん、サービス継続のためには最低限の利益を確保すべきで、個々の局面では他社が出しているような運賃水準が出せず、ご協力できない場面もある。しかし、途絶えることなくスペースを供給していくことがわれわれの使命だ」

 「供給力の重要性を理解している各国政府が、自国船社を支援する動きがある。公正な競争環境という意味では、この傾向は懸念材料ではある」

■フリーアドレス制

 --新型コロナウイルス感染拡大の影響で、働き方などが大きく変わってきた。

 「東京本社は緊急事態宣言に先立つ3月末から完全在宅に移行し、宣言明けの6月初頭以降、部分出社に切り替えた。カウンター業務は予約制で再開している」

 「現時点では出社人員を25%程度に抑えている。出社した場合も、どこにいても同じクオリティーで働けるよう、リモートワーク時と同じ仮想ネットワークで社内システムに接続するようにしている」

 「社員に固定の座席を割り振らない、フリーアドレスも導入した。本来は人員増加で、年初には東京本社の同ビル内で増床を検討していたが、折からのコロナ禍で方針を転換した。現在の事務所スペースは全社員に対して9割程度のスペースとなっている」

 「在宅勤務により、コミュニケーションがオンライン化されたことで、『風通しが良くなった』という声も聞こえている。議論がコンフィデンシャルに(機密性を保持して)行われ、活発に意見交換できるようになったようだ」

 「継続して在宅勤務は可能だが、一方で事務所にいることで業務上のメリットを感じる社員もいる。価値観の問題でもあるため、方針統一は難しい」

 --非対面コミュニケーションの拡大は営業活動などにも影響を与えている。

 「全社在宅勤務となった瞬間に『そもそも営業とは何か』という議論が始まった。船会社の代理店として、われわれがもう一度何をやるべきか再定義しなければならない段階にある。明確な答えはないが、議論を続けている」

 「オンライン会議のメリットは実感している。これまで営業陣の顧客との面談件数は1人平均2件だったが、オンラインミーティングでは移動時間などがなくなったことで、今は平均4件にまで増加している」

 「各地に分散した関係者が一堂に会することができるのも大きなアドバンテージだ。顧客も運賃決定権を持つ部門と、工場など実際に貨物を有する部門が物理的に離れていることがあるが、オンラインであれば海外工場の担当者も参加が容易だ。顧客からの要望に対して、営業陣が持ち帰ることなく、担当者を会議に交えることで迅速に回答できる」

■即時見積もり開始

 --その他、デジタル化の取り組みは。

 「従来からのEビジネスソリューションmyMSC.comに、6月からインスタントクオート(オンラインの即時見積もりシステム)の機能が加わった。迅速にレートを提示できるため、顧客の利便性を向上する。ただ、顧客がシステムに入力し、本社がシステム経由で回答する、となると、代理店の役割とは何か、という問題に再び立ち戻ることになる」

 「われわれは若い人材をこの業界に引き入れ、育てていく使命がある。そのとき、彼らの将来はどこにあるか。例えば、スイス本社までキャリアパスがつながっていれば、夢もあるし、(日本代理店に)入社するハードルも低くなる。人事制度も整備されてきており、将来的にはそういう可能性もゼロではない」

■前年水準上回る

 --今春の契約更改交渉を振り返って。

 「北米向けSC(サービスコントラクト)については、日本発MQC(最低積み荷保証)分は前年を上回る水準で更改できた。ただ、日本からの直航サービスの船腹に余裕があるせいか、足元では一部船社の運賃水準に影響が出ているようだ。MQCを超える部分については、そういった船社に貨物を奪われているのは確かだ。燃油価格低迷もあり、新BAF(燃油課徴金)ゼロ、さらにベース運賃も下げるような動きもある」

 --欧州航路の契約更改は。

 「アジア全域で見れば、MSCとしては悪くない結果だったが、日本発の契約については不調だった。各アライアンスの減便や、東南アジアを中心とした物量回復により需給は拮抗(きっこう)している。北米同様、日本発で安値攻勢をかける船社もあるが、日本以外のアジア発の運賃水準が高止まりしている中、北米・欧州航路ともにMSCジャパンとして(低い運賃提示を)追随する理由はない」

 「減便が広がる中、どのサービスを維持し、どう運賃を設定するかについては各社・アライアンスのポリシーが表れている。例えば日本直航の北米サービスは東南アジアとの運賃面での関連性が低く、市場全体の傾向とは乖離(かいり)した運賃も見られる」

 --足元の荷動き動向は

 「肌感覚だが、日本発は前年比6割程度の水準だが、東南アジア発はほぼ前年比並みに戻っている。コロナ禍に先立って米中貿易摩擦を背景に中国からの生産シフトが進んでおり、もともと物量のパイが拡大していたところに生産の回復が重なった」

 「今年は安全策を取りMQCを低めに設定している荷主が多い。このため、日本企業の船積み担当者も東南アジア発のスペース確保に苦慮している。MSCとしても北米・欧州航路で臨時サービスにより供給を増やしている」

■商習慣見直しも

 --昨年から、アジア域内航路の集荷にも取り組んでいる。

 「残念ながら、苦戦しているのが正直なところだ。運賃があまりに低水準で、MSCとしては受け入れがたいフリータイム(無料保管期間)を設定している船社も多い。アジア航路に限らずデマレージ(超過保管料)、ディテンション(返却延滞料)については商習慣を見直す必要がある」

 「コンテナターミナル(CT)に貨物を留め置き、需給変動に対応する新サービスSOT(サスペンド・オブ・トランジット)をグローバルで提供している。今回のコロナ禍のような不慮の事態への対応がコンセプトだが、そもそも日本市場は船社がフリータイムを長く提供する傾向にあり、SOTのコンセプトが響かない。むしろ日本市場では、コンテナの提供にもコストがかかっていることを理解いただき、適切なフリータイム設定などをお願いしていきたい」

 かい・まさひで 70(昭和45)年生まれ。早大商卒。住友建機、P&Oネドロイドジャパンを経て、99年MSCジャパン入社。10年から現職。熊本県出身、50歳。