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 印刷 2020年06月26日デイリー版1面

インタビュー 新社長に聞く】三菱造船社長・北村徹氏、国内注力、事業継続へ

三菱造船社長 北村徹氏
三菱造船社長 北村徹氏

 三菱重工業グループは、商船事業分野で近年、分社化や、LNG(液化天然ガス)船など大型船を建造してきた長崎造船所香焼工場(長崎市)の大島造船所への譲渡作業推進など、大規模な改革を進めている。グループの商船事業を担う三菱造船社長に25日に就任した北村徹氏に、戦略を聞いた。

(聞き手 五味宜範)

■高密度艤装船へ

 --社長就任の抱負は。

 「当社は2018年1月、三菱重工の商船事業が分社化され発足した。発足後2年半が経過するが、この間、国内の造船所は、当社を含めて、韓国、中国との熾烈(しれつ)な競争を繰り返し、また今年に入ってからは新型コロナウイルスの影響もあり、今までに経験したことのない厳しい状況に陥っている。そのような中で三菱重工は昨年12月、香焼工場の大島造船所への譲渡検討を発表した。現在の状況を考えると、当社では一昔前のように、大型の貨物船を自らの造船所で造ることは厳しいと言わざるを得ない」

 「では、今後どうするのか。事業の両輪を考えた場合、一つは、規模は小さくなるが船を造る事業は官公庁船、フェリー・RORO船、小型客船などの艤装密度の高い船種にシフトしていくことになる。もう一つは、エンジニアリング事業。例えば、他の造船所への設計の支援や提供、あるいは、当社が契約し建造を他社に委託することも考えられる。すでに貨物船の分野で国内外の造船所へ当社の線図(ライン図)を提供するなどライセンスビジネスを展開しており、今後、この分野を伸ばしていきたい」

 「また、既存製品であるスクラバー(排ガス浄化装置)やFGSS(燃料ガス供給システム)に加え、CO2(二酸化炭素)排出コントロールなど、環境対応製品も主要なテーマとなる。三菱重工グループには、環境に関する幅広い技術があり、当社はそれらを組み合わせて課題を解決することもできる。従来、造船は造船だけで考えがちな風土だったが、造船を他部門の技術と組み合わせて海事に関する新しい技術や製品、ビジネスモデルを常に創出していこうとする企業文化をつくりたい」

 「さらに、最近のデジタル化進展とともに注目されるようになったシステムインテグレーションについても、エンジニアリング事業の一つとして育てていきたい」

■海外向け案件も

 --今後注力する建造船は内航船など国内向けになるということか。

 「足元ではそうだ。内航船は比較的老齢船が多い。この代替需要を捉え、新造船に省エネや自律運航および環境対応技術などの最新技術を適用させ、実績を積み上げ、そういう技術をもって海外にも進出したい。そのためには、国内の造船所とは、連携や協業を視野に入れ、開発と製造で分業するなど、ウィンウィンの関係を構築していきたい」

 「すでにODA(政府開発援助)案件として今年に入り、フィリピン政府から同国沿岸警備隊向けに多目的船2隻を受注した。ODA以外にも、海外向けで案件があれば対応したい。欧州向けフェリーなどもハードルは高いが対象となる」

 --客船についてはどうか。

 「三菱重工グループでは巨額損失が発生した客船事業について16年10月に、客船事業評価委員会の報告書を発表し、おおむね10万総トン以下の中小型客船に対象を絞り込むことなどを明らかにした。その方針は変わっていない。ただ、例えばいきなり10万総トンクラスに近い客船を建造することは難しい。国内向けの1万6000総トン級長距離フェリーは、国際総トン数だと3万5000トンくらいになる。国内の長距離フェリーと比べても小型となる1万国際総トンレベルの客船ぐらいから始め、ステップ・バイ・ステップで大型への対応を目指したい」

■規模抑え利益を

 --今後の利益目標はあるか。

 「造船とエンジニアリングで世間並みに得たい。エンジニアリングは売り上げが小さいが、利益は造船と比べて若干ではあるが大きい。造船は規模で勝負しがちだが、われわれは規模を抑える代わりに、少しでも利益を出せるようにしたい。そうしないと造船事業を継続できない。利益は大きい方が良いが、利益を出すことが目的ではなく事業を続けることが目的であり、利益を出すことは事業を続けるための方法論だと考えている」

 --下関造船所(山口県下関市)と、香焼工場(長崎市)の手持ち工事量を聞きたい。

 「下関造船所の受注残隻数は、フェリー4隻を含む12隻で、船台ベースで手持ち工事は2年分程度となっている。フェリーの受注残はこのほか、長崎造船所本工場(長崎市)分として2隻ある。香焼工場は、LPG(液化石油ガス)船1隻と、今治造船から加工・組み立てを受託したVLCC(大型原油タンカー)の2隻。LPG船は本年6月末に引き渡す予定。最終船となるVLCCの建造にも着手している」

 --香焼工場の譲渡に向けた作業はどうなっているか。

 「新型コロナの影響で大島造船所と面着での打ち合わせができず、テレビ会議システムを用いての打ち合わせとなることで当初の予定よりは時間がかかっているが、作業自体は順調に推移している」

■品質・新技術重視

 --三菱重工は造船業界の盟主としてこれまで日本を引っ張ってきた。構造改革による規模縮小などについてどう考えているか。

 「造船はこれまで建造規模や建造量で判断されてきた面があるが、今後のわれわれの造船はエンジニアリングも含めて、品質や新技術で評価されたい。将来的な話ではあるが『海事関連の製品やソリューションには、なぜか三菱重工グループの技術が必ず入っている』と言われるような状況に持っていきたい。これまで培ってきたさまざまな要素技術やそれらをまとめ上げる統合力など、今までに諸先輩から引き継いだものを発展させ、皆さまのお役に立てるビジネスを展開していきたい」

 きたむら・とおる 85(昭和60)年広島大院了、三菱重工業入社。17年インダストリー&社会基盤ドメイン船舶・海洋事業部副事業部長兼下関造船所長、18年1月三菱造船取締役常務執行役員、18年4月三菱重工執行役員兼三菱造船取締役常務執行役員を経て、今年6月25日から三菱重工執行役員兼務で取締役社長執行役員CEO(最高経営責任者)に就任。59歳。