船員支援キャンペーン第2弾
 印刷 2020年06月17日デイリー版1面

インタビュー 造船・舶用の新モデル】国土交通省海事局長・大坪新一郎氏。建造・保有・運航を一体化

国土交通省海事局長 大坪新一郎氏
国土交通省海事局長 大坪新一郎氏

 国土交通省海事局は日本の造船・舶用工業を中心とする海事産業の将来像と、その実現に必要な方策を取りまとめた。大坪新一郎局長は、ライフサイクルバリュー(LCV、生涯価値)が高い日本建造船のメリットを業界の内部に取り込むべく、「造船・舶用工業が建造・製造に加えて、船舶の保有・運航にまで一体的に関与していくべきだ」との考えを示す。大坪局長に新たなビジネスモデルを聞いた。(聞き手 松下優介)

 --「海事産業将来像検討会」が報告書を取りまとめた。

 「報告書では、今後の取り組みの方向性として5本の柱を示したほか、新型コロナウイルスに対応する喫緊の方針も盛り込んだ。安定した海上輸送を実現するために必要な船舶を供給することは、日本の経済安全保障の根幹だ。この当たり前の前提が、コロナ禍で一層浮き彫りになったように思う」

 「緊急事態宣言下でも海上物流は止まらず、日本ではエネルギー、食料から雑貨に至るまで、物資は基本的に入手できた。これが国民の安心感に大きく寄与したからだ」

 --5本柱とは。

 「 1.企業間連携・協業・統合の促進 2.デジタル化時代に対応した産業構造への転換 3.官公庁船分野の基盤強化に向けた海外展開の促進 4.ゼロエミッション船の実現による地球環境問題への貢献 5.内航海運の課題解決への貢献-の5つだ」

■カタール「不戦敗」

 「日本造船所はコロナ禍以前からの問題として、納期厳守や性能達成の面で、邦船社からの信頼が一部で揺らいでいるのではないかと懸念している」

 「カタールのLNG(液化天然ガス)船調達商談は、得意船型の違いもあって日本がもともと積極的に参戦していないLNGの『出し手』主導の案件であり、実質的に『不戦敗』だった。不利な海外案件で量を追わないのは良いとしても、日本の顧客が求める仕様でベストな船型を常に提供できるような基礎固めをしないと、海外で復権することは難しい」

 「人的リソースの数や質が足りないところは、デジタル技術やデータ活用で補う必要がある。これは海事産業将来像検討会のテーマの一つで、IT分野などの海事クラスター外の有識者を、重点的に検討会メンバーに入れていた理由でもある」

 -- 1.では、政府系金融機関の出融資活用の検討を進める、と明記した。具体的な施策は。

 「日本造船業の支援を目的とした政府系金融機関による出融資の用途は、大きく2つに分けられる。1つ目は報告書の文言内の『共同会社の設立や国内外企業の買収など』」に対するものだ」

 「例えば『共同会社の設立』には、今治造船とジャパンマリンユナイテッド(JMU)が10月1日をめどに共同営業・設計合弁会社を設立する動きがある。『国内外企業の買収など』には、三菱重工業と大島造船所が検討を進めている三菱重工業の長崎造船所香焼工場の売却も該当する。こうしたケースでリスクマネーの供給、設備投資資金が必要になれば、日本政策投資銀行(DBJ)の出融資などを活用できる」

■JOINを活用

 --もう一つは。

 「2つ目が文言内の『船舶輸出促進』の部分で、これが日本造船所での新造船建造に対するファイナンス面の支援を指す。具体的には政府系の海外向けインフラファンド、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)を活用し、日本造船所での新造船建造をファイナンス面で支援可能となるスキームの利用を業界に推奨している」

 --JOINをどう活用するのか。

 「国内造船所で外航船を新造する船主が、船舶保有機能を持つ海外の特別目的会社(SPC)を通じて発注する際に、エクイティ(自己資金)の一部をJOINが出資する。これにより、デット(金融機関からの融資)を圧縮して船主の借り入れの返済負担を軽減、より競争力の高い用船料を提示できるようにすることで、日本造船所への発注を促す」

 --他の政府系金融機関との併用は可能か。

 「その合わせ技ができる点が肝だ。エクイティに対するJOINの出資に加え、デットの部分に政府系金融機関を併用すれば、船主の資金調達の選択肢は一層広がる」

 「例えば自己資金の一部をJOINが出資した上で、国際協力銀行(JBIC)の融資を活用したり、地銀を含む民間金融機関の融資を使ってDBJが債務保証するなど、ファイナンスを複線化することで、船主の発注を後押しする」

 --同スキームの適用に船種の制限はあるか。

 「船種の制限はないが、用船期間が比較的長く、ロット発注が多い大型コンテナ船やガス船などが想定できる。用船期間が長いほど、JOINの活用によりデットを圧縮する効果が大きくなるからだ。一部のタンカーにも使えるだろう」

 「一方、中小型バルカーは用船期間の短期化が進んでいるケースが多く、デットの部分に政府系金融機関を使うのであれば、JBICの従来の船主向けバイヤーズ・クレジット(直接融資)が適当だと思う。これは従来通り、SPCを設立しなくても活用できる」

■成長戦略に投資

 --造船所支援への海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)活用に、法律・制度の変更は必要か。

 「不要だ。造船所はもちろん、船主や商社に具体的な案件をどんどん持ち込んでいただきたい」

 --JOINが出資するべき案件とは。

 「明確な成長戦略を描ける案件だ。JOINに限らず、日本政策投資銀行(DBJ)や国際協力銀行(JBIC)などを含む政府系の金融機関・ファンドは、成長戦略さえあれば相当まとまった金額を支出できる」

 「成長戦略とは例えば、日系企業が国内外企業の買収を通じ、ある分野の技術開発で世界的に優位に立つ、または世界シェアを引き上げて競争力を強化する。こうしたシナリオを指す」

■補助金は限界

 --投融資による支援の活用を推奨する理由は。

 「造船業に対する公的支援については、個別製造業への支援としては異例と言えるほどに、研究開発・省エネ・人材育成と、公正な競争を阻害しない範囲であらゆる切り口とメニューで措置されており、既に行き着くところまで行き着いていると考えているからだ」

 「例えば海事局の予算では、i-Shippingなどの技術開発の支援に毎年15億円程度を充当。このほか、エネルギー特別会計を使った他省庁との連携で省エネ技術・LNG(液化天然ガス)燃料船の実証事業に毎年20億円以上、海外向けの巡視艇などODA(政府開発援助)案件に対しては昨年までの7年間で955億円(予定含む、有償・無償の合計)措置をしている」

 「税制についても、例えば先進船舶に対する特別償却の支援は海運税制ではあるが、実質的に日本造船所への発注支援にもなっている。経済産業省の政策が産業横断的になる中、こうした個別製造業への支援は異端といえる。つまり、補助金的な支援には限界がある。だが、業界の成長に寄与する投資なら可能だ」

■生涯価値で勝負

 --財政投融資による造船所支援は、どんな成長戦略を描けるか。

 「日本建造船の品質はまだ現時点では、世界的に多くの船主から評価されている。燃費性能とメンテナンス費用の面で特に競争力があるため、新造船価が中国・韓国の建造船より高いとしても、長く利用した場合のトータルコストでは船価の高さを上回るメリットを船主に提供できるからだ。すなわち船舶の生涯価値、ライフ・サイクル・バリュー(LCV)が高い」

 「このように長い目で見て価値が高い船舶は、海上輸送の効率化に必ず寄与する。その建造を財政投融資で支援することは、世界の海運業の成長に貢献する。これが成長戦略だ」

 「ただ『新造船を売ったら終わり』という商売では、船価だけの勝負になってしまい、日本造船所のこうした強みを生かし切れない。そこで、JOINによる新造船ファイナンスの支援スキームを活用すれば、船価が若干高くても、用船料に置き直した時に競争力を出せる。これにより、船主の日本造船所への発注を後押ししたい」

 「日本建造船のLCVが本当に高いのであれば理論上、船舶を長く保有・運航すればするほど、利益を享受できることになる。それならば日本造船業としても、そのメリットを業界の内部に取り込むべく、船舶の建造に加えて保有、さらにはその先のオペレーションにまで、一体的に関与していくべきではないか」

 --船舶の保有については、その機能を有する別会社をグループに持つ造船所はある。だが、オペレーションへの関与とは具体的には。

 「造船所、舶用機器メーカーという造る側のプレーヤーが、海運会社や商社などのパートナーと組み、日本連合のような形で船舶のライフサイクル全体を管理していく。こうしたビジネスモデルが日本造船・舶用工業の将来像だと考えている。これによるメリットは大きく2点ある」

■技術模倣を防止

 --1点目は。

 「造船所と舶用機器メーカーが運航データを蓄積・分析し、自社製品の開発・設計にフィードバックできるようになることだ。船舶設計・建造過程でもデジタルツイン(仮想空間に再現した複製)の研究が進んでいるが、この取り組みのポイントは、長期間の使用データから、ものづくりへのフィードバックだ」

 「デジタルツインは海運会社でなく、造船・舶用工業がリードする方が、日本にとって得るものが大きいと考えている。海運会社が主導する場合、日本製品から得たデータが海外に流れてしまうことも理論上、ないとは言えないからだ」

 --2点目は。

 「省エネ分野などの日本の最新技術を、海外の同業者に模倣されることを防ぐ効果も期待できる。日本造船所による新船型や、舶用機器メーカーの最新機器の仕様が、海外の修繕ヤードでの定期ドック時に模倣されるという話は、かねて業界の課題になっている」

 「造船・舶用工業が運航に関与するようになれば、日本の技術流出の防止という観点で修繕ヤードを選別するなど、一定の制約条件を付けることが可能になるだろう」

■商社に主導期待

 --新たなビジネスモデルの形成に何が必要か。

 「商社がもっと主導的な役割を発揮すべきではないか。建造・保有・運航を一体化したグループをつくる際、造船所と海運会社だけでは商流上、造船所が主体性を保てない面もあるだろう。JOINを活用した新造船ファイナンスも、商社にもどんどん使っていただきたい」

 「日本の商社が仲介する案件は、日本造船所での建造がベース。それならば、リスクマネーの供給も含めた案件形成の部分で、積極的な提案がもっと商社からあっていい。大いに期待したい」

 --韓国政府の造船業に対する公的支援は、市場を歪曲(わいきょく)しているとして問題視されている。日本の財政投融資による支援は、どこが違うのか。

 「両者は性質が全く異なる。われわれが特に問題視しているのは、韓国政府による大宇造船海洋への支援だ」

 「これは債務超過に陥り、本来は市場から退場するべきだった同社に対し、政府系金融機関が1兆2000億円以上の莫大(ばくだい)な公的資金を投入し、巨大な建造能力を温存したまま救済したものだ。その資金がダンピング(不当に安い価格)受注の原資になっているため、世界のマーケットに甚大な悪影響は及ぼしている」

 「一方、JOINを活用した日本のスキームは、新造船ファイナンスで正当なリターンを求める出資であり、意味合いが明らかに違う

 おおつぼ・しんいちろう 87(昭和62)年東大院修了、運輸省(現国土交通省)入省。ハーバード大修士、東大博士。16年大臣官房技術審議官(海事局担当)、17年海事局次長。19年7月から現職。福岡県出身、57歳。