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 印刷 2020年05月25日デイリー版1面

英P&Iクラブ コロナ禍での船員支援】スタンダードクラブ、上級検査員 ラウール・サプラ氏、クレーム担当アシスタント マリア-エレナ・モルトザノウ氏:「解除後」大量交代に注意(その1)

上級検査員ラウール・サプラ氏
上級検査員ラウール・サプラ氏
クレーム担当アシスタントマリア・エレナ・モルトザノウ氏
クレーム担当アシスタントマリア・エレナ・モルトザノウ氏

 船主責任保険(P&I保険)を提供する英国のスタンダードクラブ(本部・ロンドン)は、海運業界に新型コロナウイルス対策上のさまざまなサポートを展開している。スタンダードクラブのラウール・サプラ上級検査員と、クレーム担当アシスタントのマリア-エレナ・モルトザノウ氏にコロナ禍における船員の交代上の課題や感染防止策について書面インタビューした。(柏井あづみ)

 --世界的な移動制限下で海運業界は船員交代の大きな課題に直面している。

 「多くの船員は乗船期間の延長を強いられており、海上で何カ月も勤務し、家族の元に戻ることができていない。一方、自宅で身動きが取れず、生計のために海に戻りたくても乗船できない船員も存在する。海運は、世界のサプライチェーン維持に不可欠だが、現況のままでは、船員の安全と幸福を害し、安定した海上貿易のオペレーションを維持できなくなる」

 「IMO(国際海事機関)のリポートによると、いま約15万人の船員が交代を必要としている。IMOはこの状況を深刻に受け止め、加盟国に向けて船員を『キーワーカー』として指定し、船員交代を促進するよう勧告。さらに安全な船員交代と移動を確実にするための12段階のプロトコル(手順・規約)推奨フレームワークを発行した」

 「世界の主要P&I組合が加盟する国際P&Iグループは、ウェブサイト上で新型コロナ関連情報サービス『COVID-19ダッシュボード』を公開しており、世界各国の船員交代に関する最新情報を閲覧できる」

■ドミノ効果懸念

 --今後の留意点は。

 「われわれは、(移動制限などの)緩和が発表された直後に大規模な船員交代が行われると予想している。これは長期的に船の安全なオペレーションに有害となる恐れがある。複数の乗組員が一気に交代されることから、将来にわたり船員交代にドミノ効果(一つの行動の変化により、連鎖反応で他の行動も変わること)が生じ得る」

 「従来、船員交代は段階的に行われるものだ。しかし、制限解除後の大量交代に伴い、その船での勤務経験が浅い船員が船内の多くを占めてしまう可能性がある。さらに、感染防止のためのソーシャルディスタンス保持をはじめ人的接触抑制のマイナス影響により、乗船前のオフィスブリーフィングや新旧の船員間の引き継ぎが制限されてしまうことが予想される」

 「こうした状況下では、海運会社は可能な限り船員交代をずらし、たとえ数日間であっても、各部署に新旧の乗組員が数人勤務することが望ましい。もう一つの選択肢は、ビデオを介して乗船前ブリーフィングと引き継ぎをリモートで綿密に実施し、新しい乗組員がすぐに運航を引き継いで船を安全に動かせるよう注力することだ」

 「船員の移動を巡っては、新しい乗組員が乗船のために外国に到着した際、検疫期間を要する可能性も強調したい。一方で検疫期間が不要な場合でも、新しい乗船者は、船までの移動時の感染の可能性を考慮し、フェースマスクや手袋などの適切な個人用保護具(PPE)着用に加えて、船に到着した最初の14日間はソーシャルディスタンスを維持することを推奨する」

 「船を24時間体制で支援するためにリモート勤務している多くの陸上スタッフの存在も忘れてはならない。海事産業全体は非常に豊かで伝統的な歴史を持つ。われわれは共同して互いをサポートし、回復力を維持しながら、世界を動かし続ける必要がある」

■安全運航を阻害

 --長期乗船による船員への影響をどう見るか。

 「船員交代の難航は、船員とその家族に多くの精神的、感情的、肉体的ストレスを引き起こす。このストレスの影響下で働く船員は、自らが脆弱(ぜいじゃく)な存在であると感じ、ミスを犯しやすくなり、人命の危険や経済的損失、海洋環境へのダメージを引き起こす恐れがある」

 「マリタイムコミュニティーは、安全運航と乗船中の船員の肉体的、精神的な健康を保証するために、さらなるサポートを提供する必要がある」

 「スタンダードクラブは、国際P&Iクラブと共に船員支援にたゆまぬ努力を続けている。クラブのウェブサイトには船員の健康維持を目的とした専用ページを設け、国際船員福祉支援ネットワーク(ISWAN)や、セイラーズ・ソサエティー、ミッションズ・ツー・シーフェアラーズなどの船員支援団体へのリンクを掲載している」

 「各国は今こそ船員交代促進のために行動し、乗組員が彼らにふさわしい休息を得て家族と共に過ごせるようにすべきだ。そして、船に戻ることを懸命に望んでいる船員たちが代わりに乗船することで、世界の活動を維持することができる」(2面に続く)