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 印刷 2020年04月30日デイリー版1面

船員交代 航行安全と感染のジレンマ】(2):海上貿易寸断の恐れも。船員交代の枠組みづくり急務

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上には、乗船中の船員を励ます言葉や船員から家族へのメッセージが数多く投稿されている(提供 日本郵船)
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上には、乗船中の船員を励ます言葉や船員から家族へのメッセージが数多く投稿されている(提供 日本郵船)

 「船員は社会生活や経済活動の基盤となる物流を担う“キーワーカー”だ。各国政府が出入国規制や移動制限から船員を除外するように、IMO(国際海事機関)の活動を支持してほしい」

 4月1日に国連が開催したオンライン会議。新型コロナウイルス問題が国際貿易に及ぼす影響についての議論がなされ、医薬品や食料などの供給網を維持することの重要性が確認された。

 同会議に参加したIMOのキータック・リム事務局長は、船員がグローバルなサプライチェーンの中で果たしている役割を強調。その役割を全うするために、「船員交代が円滑に行われなければならない」と訴えた。

■交代のめど立たず

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、各国政府が導入した出入国制限や検疫強化などにより、船員交代が困難な状況が続いている。

 WHO(世界保健機関)は3月11日に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を宣言。感染拡大を食い止めるために、世界最大の船員供給国であるフィリピンはマニラ首都圏のロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。

 新型感染症のまん延という非常事態を受けて、国内外の海運会社は船員交代を一時停止した。船員交代には航空機や陸上の交通機関による国や都市をまたぐ移動が伴う。移動によって船員が感染する、あるいは船員が感染させてしまうリスクを避けるためだ。

 ただ船員交代を停止できる期間は、長くても1カ月程度との見立てだった。それ以上延びると現場への負担が増大し、船員の心身を害し安全運航を脅かす可能性がある。

 だが新型コロナウイルスは欧米など世界中に波及し、移動制限を課す国・地域が拡大。フライトは大幅に減少し、外国人の入国を原則禁止する国も増え、船員交代を再開できるめどは立たなかった。

 一方で、コロナ問題の発生後も徹底した感染防止策を取りながら、船員交代を継続してきた海運会社もある。

 交代要員はPCR検査で罹患(りかん)していないことを確認し、検温などで日々の健康状態もこまめにチェックし記録する。入国後14日間は宿泊施設で待機するなど、当該国の検疫も順守し乗船勤務に就いた。

 だがインドが同国全土をロックダウンし、「インド人船員の配乗はお手上げ」(海運関係者)となるなど、船員交代に関する包囲網は広がるばかりだった。フィリピンも都市封鎖の範囲を広げ、期間も延長した。

 新型コロナ問題が長期化の様相を呈する中で、契約期間を超えて乗船する船員が増加するにつれ、いつになれば交代できるのか先が見えないことへの不安が募っていった。

■毎月10万人が交代

 船舶による海上輸送は世界の貿易量の90%を占める。現場を担う船員の数は約200万人に上る。各国船主協会が加盟するICS(国際海運会議所)やITF(国際運輸労連)の試算では、平時は毎月約10万人の船員が世界各地で交代している。

 寄港国検査当局や旗国、労組は、船員交代が困難な状況を鑑み、連続乗船規定を超えても一定期間の乗船を認める方針を示している。しかし、「船員への負担を考慮すると限界がある」(船舶管理関係者)。

 「船員交代問題は時限爆弾だ。速やかに船員交代の枠組みが整備されなければ、船員が疲弊し安全運航を脅かし、サプライチェーンの安定性を損ねる恐れがある」

 シンガポールの船舶管理会社シナジー・グループのラジェシュ・ウニCEO(最高経営責任者)は、船員交代がままならない状況に強い危機感を示す。

 IMOをはじめとする海事関係者の働き掛けなどが奏功し、入出国規制から船員を除外する動きはある。

 シンガポールやジブラルタルなどは、条件付きで船員交代を容認する考えを提示。EU(欧州連合)の政策執行機関であるEC(欧州委員会)も、船員交代に関する指針を策定し、EU加盟国に行動を促した。

 だが、「実質的に船員交代が困難な状況は変わらない。この状況が続けば危惧していたことが現実のものになる」と海運関係者は警鐘を鳴らす。

(随時掲載)