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 印刷 2020年04月24日デイリー版1面

インタビュー One Sea参加】MTI船舶物流技術部門長・安藤英幸氏。「有人自律」まず照準

MariTech
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MTI船舶物流技術部門長安藤英幸氏
MTI船舶物流技術部門長安藤英幸氏

 日本郵船グループの技術開発系子会社MTIは昨年、2025年までの自律運航船の実用化を志向するグローバルアライアンス「One Sea」に参加した。MTIの安藤英幸船舶物流技術部門長は、「『高度な自動化システムが操船者を支援する』という有人自律システムの実現が最初のターゲット」とし、One Seaで自律運航船の実現に向けた議論が加速することに期待感を示す。One Seaをはじめ郵船グループの自律運航船の取り組みについて、安藤氏に聞いた。(聞き手 鈴木隆史)

 安藤氏は自律運航船の実現に向けたアプローチとしてまずは「有人自律」の実現をターゲットに挙げる。

 有人自律は「高度な自動化技術が人の操船作業を支援する」というもの。その組み合わせが安全上、最適との前提に基づき運航・設計コンセプトを固めていく。

 ただ、人による運航と機械による自律運航は特性が異なる。同氏は「プラス、マイナス双方の要素がある」と指摘する。

 「人は疲労の蓄積や、他の仕事に意識を取られ、状況認識が十分でないこともある。一方、柔軟性や洞察力があり、機転を利かすことができる」

 「対してコンピューターは圧倒的な計算スピードと処理能力を有し、疲れを知らない」(安藤氏)

 こうした性質の異なる要素の良さを組み合わせることで、高度な安全性を維持しつつ経済効率も高まるという。

その上で同氏は「人が機械の特徴を理解・活用することで、事故を減らすことができる。経済面でも優位性があるだろう」と指摘する。

■運航コスト20%減

 また、郵船グループは、「船長の豊富な現場経験が、有人自律システムの開発をリードすると共に、使い勝手の良いものにする」と捉えている。

 その考えについて、安藤氏は昨年3月、BIMCO(ボルチック国際海運協議会)のセミナーで、郵船で船舶のオペレーションを統括する小山智之常務経営委員(当時、現専務経営委員)と共にプレゼンテーションした。

 両氏は「船舶自動化技術の経済合理性評価」と題した外航大型船での試算結果を発表。有人自律船が従来型の船舶の運航よりもトータルコストを年間2割程度抑えられる可能性を示した。

 一方、完全な無人船の運用には従来型の船と比べ年間コストが約2倍、遠隔操船のドローン船の場合は同4倍以上になるとした。完全無人船では、非常時のバックアップまで機械が行う。それを実現するための初期投資が必要。

 遠隔操船の船では、船から大量の映像データを常時陸上オフィスに送る通信▽サイバーセキュリティー対策▽一時的に通信が途絶えた際のバックアップ機能-で諸費用が想定される。

 外航大型船で完全な無人船や遠隔操船の実現には、まだ時間を要する見込み。安藤氏は「現在の技術は、完全な自律を達成するのにまだ十分成熟していない。衝突事故の約70%は人間側の状況認識の欠如が原因。だが、レーダーなどのセンサーが対象を捕捉できないこともある」と語る。

他方、世界では欧州を中心に完全な無人船やドローン船を実現しようという動きもある。同氏は「内航船における限定的な条件下で、有人自律船システムで培った技術や経験を生かすことで、こうした高度な自律船も実現し得る」と期待を寄せる。

■業界全体で標準化

 MTIは郵船と共に船舶データ収集装置、情報管理システム(SIMS)を開発し、本船に搭載、運用している。だが、安藤氏は「船会社にとっては安全な海上輸送が中核事業。データ収集装置は競合するものではない」と指摘する。

 一方、装置の要求仕様や収集したデータの共有ルールについては、「業界全体で標準化することが重要」と語る。その上で、昨年加盟した「One Sea」の取り組みに言及。

 「自律船の要件を明確にし、共有する。おのおの得意分野を持つメーカーの技術を組み合わせて実現する」

 「各コンポーネント(部品)の要求仕様、部品間のインターフェース、プロトコル、データの要件について共通理解を構築する」などと語った。

■国の実証事業参画

 郵船グループは国交省が進める自動運航船の実証事業にも参画。同プロジェクトは、今後の自律運航に関する安全性評価に必要な要素を特定するもの。

 期間は3年間。東京湾で郵船グループの新日本海洋社のタグボートを使った遠隔操船の技術導入を通して検証する。

 既に設計段階でのハザードの特定などについての安全性評価は実施済み。そうした結果が今後のIMO(国際海事機関)の議論で活用される見通し。

 あんどう・ひでゆき 97(平成9)年東大院工学研究科修士課程修了。日立造船、東大院新領域創成科学研究科助手、助教授を経て、05年10月にMTI入社。16年4月に日本郵船に転籍。MTI入社以来、郵船の研究開発に従事し、19年4月から現職。博士(工学)。48歳。