船員支援キャンペーン第2弾
 印刷 2020年04月23日デイリー版1面

インタビュー 緊急事態下の日本造船】尾道造船社長・中部隆氏。国を挙げ次世代船に活路を(その1)

尾道造船社長 中部 隆氏
尾道造船社長 中部 隆氏

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で新造商談が停滞する中、造船業の事業環境も不透明感が増している。尾道造船の中部隆社長は、造船業は「緊急事態」といえる厳しい状況との認識を示しつつも、手持ち工事がある限り一定の売り上げは立つため、経営が直ちに行き詰まることはないと指摘。コロナ後は「次世代環境船の需要が一層高まるのは確実」として、水素燃料船など日本が強みを持つ分野で主導権を握るべく、国を挙げて取り組むべきだと主張した。中部社長に緊急事態下の日本造船業の針路を聞いた。(聞き手 松下優介)

 --政府による緊急事態宣言の国内造船所への影響は。

 「管理・営業部門では在宅勤務の拡大、工場では感染対策の強化がそれぞれ一層進むなど、実務面での影響は多少あった。だが、造船業界はそれ以前から『緊急事態』といえる厳しい状況が続いており、足元の事業環境は数カ月前から大きく変わっていない。具体的には新型コロナウイルスの感染拡大が顕在化し、新造商談が一段と停滞した1月後半からだ」

 --新造船マーケットの現況は。

 「交渉が進んでいる案件はごく一部で、新造商談は海外・国内とも停滞したままだ。欧州では国単位で外出制限が続く中、船の仕込みに動いている船主は一握りだろう。国内でも特に航空機に投資してきた船主が、新型コロナ問題を受けたリース料の遅延で打撃を受け、新たな投資が難しくなっている印象だ」

 --船種で濃淡はあるか。

 「バルカーの商談はほぼ停止している。当社が昨年後半に進めていたマリンガスオイル(MGO)専焼バルカーの欧州船主との商談では、技術的な課題をクリアした後は、船価が焦点だった。これが、交渉が進むにつれて『今が投資をする時期か否か』に船主が重点を置くようになってしまった」

 「バルカーに限った話ではないが、GHG(温室効果ガス)の大幅削減を求める環境規制が2025年、30年に控える中、船主は総じて今後の主流船型を見極めづらく、新造船の陳腐化リスクを意識せざるを得ないからだ」

 「それでも、ドライ市況の先高観が維持されていれば、成約に至ったと思う。だが、昨秋から用船市況が弱含んで先行きの不透明感が強まったため、交渉が中断した。そこにコロナ問題が発生し、商談が停止して今に至る」

 --タンカーはどうか。

 「当社製品でいえば、MR(ミディアムレンジ)型プロダクト船は用船市況が足元でも堅調なため、引き合いは比較的あるが、総じて厳しい状況だ」

■資金ショートせず

 --国内造船所の喫緊の課題は。

 「一つはキャッシュの確保だろう。新型コロナの影響による渡航制限で船員を手配できず、新造船の引き渡しに遅延が生じるケースが当社でも出ている。デリバリーが遅れれば当然、その分だけ引き渡し金の入金が遅れる。このため、金融機関につなぎの融資を要請するなど、対応が必要になる。今の状況が続き竣工が遅延する隻数が膨らめば、厳しさは増す」

 --資金ショートの懸念は。

 「造船業は一般的に今のような状況下でも、直ちに資金ショートに陥ることはない。需要が急減した途端に大幅な減収となる多くの業種と異なり、手持ち工事がある限り、一定の売り上げが立つからだ。引き渡しの遅延が続けばダメージは小さくない。だが、手持ち工事を2年強確保していれば、当面の資金繰りは何とかなる」

 「造船はずっと不況業種と言われてきたが、工期が長い造船業はこの点でまだ他業種より恵まれている。足元の新造商談の停滞は、2-3年後に響いてくる深刻な問題であることは間違いない。だが、それだけが理由で造船所の経営が直ちに行き詰まることはない」

■部品価格上昇も

 --今の状況が続いた場合に想定されることは。

 「新型コロナの影響で造船業全体の受注量が当面減少するのが確実な中、22年後半など先物納期の新造船については、舶用機器や部材をこれまでと同じ価格で購入するのが難しくなる可能性がある。メーカーも一定の固定費がある中、生産量が急減すれば、製品の価格を上げない限り製造を続けられないからだ」

 「舶用機器を手掛けるメーカーは、陸上機器との兼業も多い。造船業が早期に復活する保証がない以上、今の状況が仮に半年、1年と続けば、舶用事業から撤退するところも出てくるだろう。国内造船所も同様で、手持ち工事が尽きてしまえば事業を継続できない」

 --国内造船所の手持ち工事は平均で1年から1年半程度と少なくなっている。対策はあるか。

 「例えば仕事がない間、政府の雇用調整助成金を活用して従業員の給与の一定比率を助成してもらい、マーケットの回復を待つ、という方法もなくはない。ただ同助成金は新型コロナの影響で特例措置が打ち出されたとはいえ、ベースの支給限度日数は100日。その日数は当社の船の建造ポジションでいえば、2-3隻分にしかならない」

 「今の状況が短期間で好転することが仮に保証されていれば、それをやる価値もある。しかし足元をみると、今の状況がある程度続くと想定せざるを得ない。その場合、雇用調整助成金を使っても、苦境を先延ばしするだけになる」

 --造船所が能動的に取れる対策は限られるか。

 「工場の操業確保のために、戦略的に通常より安値で受注するというのは、造船所の一般的な不況対策だ。以前なら、それを狙って底値買いに動く船主が多くいた。だが、環境規制を控えて船主は様子見姿勢を崩しておらず、船価が安ければ発注するという状況ではない」(2面に続く)

 なかべ・たかし 92(平成4)年玉川大英米文卒、94年富士ゼロックス入社。01年同社退社、尾道造船入社、東京支店副支店長。03年取締役業務部長兼東京支店長、05年常務、07年専務、09年6月から現職。50歳。