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 印刷 2020年04月21日デイリー版1面

船員交代 航行安全と感染のジレンマ】(1):切迫 高まる交代需要。PSC・ロックダウンなど課題次々

船員が海上物流を支えている(ギリシャ船主大手テナマリスの「LinkedIn」より)
船員が海上物流を支えている(ギリシャ船主大手テナマリスの「LinkedIn」より)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、現在、海運業界が対応に最も苦心しているものの一つが船員交代だ。長期乗船が続けば、船員の疲労が蓄積され、航行安全に支障を来しかねない。だが、交代により新たに乗り組む船員が感染している可能性もゼロではない。乗船前に問題はなくとも荷役作業など、航海中に感染することもあり得る。航行安全の確保と感染リスクの回避というジレンマの中で、船員配乗を担う船主や船舶管理会社は日々対応に苦慮している。現在進行形の課題である「緊急時の船員交代」の動向を多方面から検証する。

 船員交代は本船の円滑航行のために不可欠なものだ。生身の人間である以上、長期間乗り続けることは不可能であり、適切なタイミングでの交代が海上物流の安定化につながる。

 乗り続けられる期間は、国際条約(海上労働条約、MLC2006)で12カ月と規定されている。

 ただ、実際には個別の労使協約に基づき、日本船主が配乗する外航船員の場合、最長9カ月というケースが多いようだ。 乗船期間満了が近づくと、船主は交代のために新規要員を手配する。交代は荷揚げやドックなどの節目で実施する。

 一般商船では20数人の船員が乗船しているが、全員を一回で交代させることはなく、3、4回に分け、それぞれ別の港で行う。

 新たに乗り組む船員は自国のクルーエージェントの仲介の下、航空機なども利用し、交代ポイントとなる港を目指す。

 こうした一連のオペレーションが新型コロナウイルスの発生により、停滞している。

■事前に第三国で交代

 船員交代を取り巻く課題は、感染の急拡大と共に目まぐるしく変容している。

 最初に浮上した課題はポートステートコントロール(PSC、寄港国検査)への対応だ。

 2月上旬頃、最大船員供給国フィリピンも含め各国の航空会社はコロナの発生源である中国への減便を進めた。

 その結果、主要な船員交代地である中国での交代が困難になり、MLC2006の連続乗船規定(12カ月)に抵触し、PSCで指摘、拘留(ディテンション)される懸念が浮上した。

 「拘留されると、オフハイヤー(不稼働による用船契約の中断)になる可能性もある」(船主関係者)

 そのため、中国での船員交代を断念し、運航を継続していた船主の中には、寄港国でのPSCに備え、急きょ第三国で交代を図る動きが起こった。

 第三国への寄港には、追加で入港税が発生する。船員交代を理由とする入港税は船主負担となることが多く、その規模はアジア圏の寄港の場合、ケープサイズで、100万-200万円が相場とされる。

 ただ、こうした第三国での交代は、3月に入り、PSCに厳格な豪州海洋安全局(AMSA)が船主の窮状を考慮し、連続乗船規定を緩和したことで徐々に解消されていった。「今ではPSCで乗船期間の超過を指摘されることはなくなった」(船主関係者)という。

■移動制限で難航

 次いで、浮上した課題はロックダウン(都市封鎖)に代表される各国の移動制限の強化だ。

 3月11日のWHO(世界保健機関)のパンデミック(世界的大流行)宣言により、各国の緊張は一気に高まった。

 フィリピンも同15日からマニラ首都圏を封鎖。17日にはルソン島全域に対象を拡大した。期間も4月30日までに延長し、封じ込め対策に注力している。

 日本も4月3日にフィリピンを含む73カ国・地域の国からの入国の禁止措置を開始した。

 日比双方の対策により、足元では日本商船隊で過半を占めるフィリピン人船員の交代が物理的に困難になっている。

 インドやバングラデシュもそれぞれロックダウンし、フィリピンの代替機能は期待できない。

 フィリピン人の配乗を手掛ける船舶管理関係者は「当局と個別に協議すれば、日本への入国を認めるケースもようだが、確実ではない」とし、当面は交代を見合わせる方針を示している。

 引き続き、各国による水際対策の強化は継続される流れにある。

 コロナ発生直後最も危険視されていた中国では、一部の港で交代が可能になり始めているが、対象は中国人に限定され、全体の交代需要を埋めるに不十分だ。

 船主関係者は「既に1年を超えて乗船する者も出始めた。労組や旗国の合意を得ているが、乗せ続けるにも限界がある」と語る。

 収束の兆しが見えない中、交代需要は日を追うごとに高まっている。(随時掲載)