印刷 2019年11月15日デイリー版1面

インタビュー 創立60周年の挑戦】安保商店・安保雅文社長、「新生・安保商店」へ

安保商店社長・安保雅文氏
安保商店社長・安保雅文氏

 船主業を営む安保商店(本社・広島県尾道市)は今月8日に東京都内で、創立60周年記念式典を開催した。安保雅文社長にこれまでの歩みを振り返ってもらいながら、今後の針路を聞いた。(聞き手 山田智史)

 --創立60周年記念パーティーを参加費制として、参加費の全額を子ども支援専門の国際NGO(非政府組織)セーブ・ザ・チルドレンに寄付することにした経緯は。

 「1992年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパン中国地区協議会を設立し、事務局長を10年間務めた。セーブ・ザ・チルドレンの取り組みは今でこそ広く知られるようになったが、当時は日本組織が誕生したばかりで賛同者を集めるのに奔走した。60周年という一つの節目を迎えるに当たり、改めて何か協力できないかと考え、今回のチャリティーパーティーが実現した」

■円高で経営危機

 --60周年を迎えた所感は。

 「創立は前回の東京オリンピックの5年前の59(昭和34)年になる。日本企業の多くが高度経済成長を追い風に大きくなったように、われわれもその波に乗って業容を広げることができた。景気後退や海運不況も幾度となくあった。それらをいかに乗り越えるかが経営の要諦だったように思う」

 「海産物問屋からスタートし、内航船の船主業に進出。ただ父はきめ細かい対応が求められる内航の世界はなじまなかったようで、外航分野に活路を求めた。貨物はあるが資金がない新興船社向けの裸用船から始めた。裸用船事業からの収益は微々たるものだが、売船時にまとまった資金を得ることができた。それを元手に新造船を発注し、船隊を少しずつ増やしてきた」

 --経営危機にも直面した。

 「最も厳しかったのは85年のプラザ合意後の円高だ。プラザ合意前に11万重量トン級のプロダクトタンカーを発注した。発注時の為替は1ドル=240円だったが、竣工時は1ドル=160円になっていた。船価が4割上昇したようなものだった。金融機関、造船所などの協力を得て、何とか引き渡しまでこぎ着けた。それまでの蓄えはそこで使い果たした」

 「その後も円高は止まらず、1ドル=120円まで進行。保有船ほぼ全船のリスケジュール(返済計画の変更)を金融機関にお願いせざるを得なかった。為替で怖い目にあったため、それ以降は為替リスクを取ることをやめた。用船料がドル払いの場合はドルで借り入れ、円払いの場合は円で借りることにしている」

■定期用船に進出

 --リーマン・ショック後は用船者リスクにも直面した。

 「40年来の付き合いのあったオペレーターが金融危機後に経営破綻した。複数の海外オペから用船料の減額要請も受けた。裸用船は元々利ざやが少ない。減額は受け入れ難い。裸用船は有事の際の対応が難しい。用船先が倒産した場合、他の債権者に差し押さえられる可能性がある。返船されても裸用船しか対応できなければ、運用リスクを抱えることになる」

 「そこで定期用船に乗り出すことを決めた。それまでも一部の船舶は定期用船で貸し出していたが、船舶管理は用船先に丸投げだった。定期用船を始めるために、船舶管理会社の会社管理ができる人材を育成。オペレーション(運航管理)業務も自前で行える体制も整備した」

 --現在の船隊構成と事業の運営方針は。

 「新造発注残とシンガポール現地法人の保有船を含めて30隻。中小型バルカーとケミカル船が主体だ。内航船も4隻ある。発注残はカムサマックスとケミカル船が各2隻で、20年6月までに引き渡しを受ける。シンガポール法人の保有船はケミカル船3隻。裸用船が今後も当社のメインビジネスであることに変わりはない」

■中古買船に活路

 --新造船の案件がない状況が続いている。

 「船価と用船料が乖離(かいり)しており、オペは新造整備に踏み切れない。用船者は船齢10年をめどに、売船を決断することが多い。売船により当社の船隊が減れば、収入が減り会社を維持することもままならなくなる。今の状況では船隊規模を増やせなくとも、減らさないようにはしたい」

 「昨年、中古船3隻を購入した。これまでにも仕組み替えで中古船を購入したことはあるが、中古船市場で購入したのは初めて。金融機関も後押ししてくれた。ハンディバルカー2隻、ケミカル船1隻を購入し、1-2年の契約でTCアウト(定期用船貸し出し)している。オペレーション可能な範囲で、中古船の追加購入も検討している」

■「損を出すな」

 --船主業を営む上で大事にしていることは。

 「裸用船は取引先との信頼関係が最も重要になる。直接、自分たちで対話できる相手でなければ成り立たない。『Trust is our Treasure(信頼がわれわれの財産)』を企業理念としたのもそのためだ。顧客との信頼関係をいかに構築するかが鍵を握る。父によく言われた『商売をするときには、大きくもうけることより損を出さないようにすることを考えろ』ということも肝に銘じている」

 --どのような会社にしたいか。

 「社内の風通しを良くし、社員が働きやすい環境をつくりたい。定期用船を本格的に始めるに当たり、オペレーションを担当する経験者を採用した。スペアパーツや備品などの購買も内製化した。人員は長く5人体制だったが、今はシンガポール法人も含めて18人まで増えた。子育て世代が多いので、お互い支え合う組織にしたい。当社がこれまで歩んできた歴史、理念を踏まえ、新しいことに挑戦する次代の担い手を応援したい」