2019 日本コンテナ航路一覧
 印刷 2019年09月11日デイリー版1面

MariTech×ShipDC 海事未来図】(11):商船三井専務執行役員・チーフテクニカルオフィサー、技術革新本部長・川越美一氏/物流イノベーション起こす

商船三井専務執行役員・川越美一氏
商船三井専務執行役員・川越美一氏

 --日本海事協会(NK)の子会社であるシップデータセンター(ShipDC)に期待することは。

 「公平なセキュリティー管理の下で、産業分野の枠を超えたあらゆる関係者間のマッチングの場となってほしい。ShipDCを介して、運航データの有効活用によるオープンイノベーションを実現していきたい」

 「データを有効活用しようと思うと1社でやれることには限りがある。データの量は多ければ多いほどいい。大量のデータを一元管理し、公平なルールの下で利用できることが望ましい。データを安全にためておく金庫、データを自由に取引する市場のような役割に期待している」

 --運航データなど船舶IoT(モノのインターネット化)データをどのように活用していくか。

 「安全運航の強化や最適運航の深度化、本船パフォーマンスの解析精度向上に活用していく。これらは環境負荷軽減にも寄与する。これからチャレンジするのは、機関の故障予兆診断や貨物管理の高度化、船陸間のさらなる連携強化になる」

 「海運会社が企業価値を高めるために必要となるのは、安全と環境の追求だ。これらを実現するための手段にはハードとソフトがある。船舶というハードに関わる機器の開発ももちろんやる。だが、今後はデータを扱うソフトの部分の重要性が増すだろう」

■管理船150隻に搭載

 --船舶IoTデータ活用に向けた具体的な取り組みは。

 「ICT(情報通信技術)の有効活用に向けた中核プロジェクト『FOCUS』を推進している。クラウド上に保管した運航データとアブログ(撮要日誌)データの一部をもとに、各種アプリケーションを開発する取り組みだ」

 「センサーなどで取得した運航データをデータ収集送信装置『フリート・トランスファー』を通じて、クラウド上の統合データプラットフォームに集積する。同装置は自社管理船150隻に搭載する予定だ」

■人間の判断サポート

 --「FOCUS」の特長や強みは。

 「データが1分ごとに更新されるため、機器の状態変化がきめ細かく把握できる。また航海・機関運転状態モニタリング用のアプリはカスタマイズしやすいようにした。SI(船舶管理監督)によって見方が違い、船ごとにチェック項目も異なる場合もあるためだ」

 「ベテランではなく新米のSIでも運航状態を的確に判断できることを目指している。最終目標は機関の状態診断、故障の予兆診断を機械化することだが、現段階ではデータを見やすく加工することで人間の判断をサポートしようとしている」

 --自律航行船の実現に向けた取り組みは。

 「見張り、操船、海気象のテーマごとにそれぞれ研究開発を進めている。夜間や霧がかかって視界がきかない状況でも、画像認識技術やセンサーなどを使って障害物を検知するシステムを確立しようとしている。熟練船員のノウハウをデータ化して、避航操船や自動離着桟のシステムの実用化を図っている。ウェザールーティングの高度化には、海気象データの充実が欠かせない。国土交通省の助成を受け、海気象データの収集を強化している」

 「2020年には内航フェリーでスマートシップの実証事業を行う。画像認識技術を活用し、自動で障害物を検出する。障害物との衝突を自動で回避する。離着桟も自動で行う。内航フェリーは輻輳(ふくそう)海域を航行し、離着桟する回数も多い。これらが自動化できれば事故は大きく減らせる。深刻化する船員不足にも対応できると思う」

 --デジタル技術の進歩で海事産業はどう変わるか。

 「船でモノを運ぶということ自体は大きく変わらないと思う。ただ異業種とのオープンイノベーションが進めば、これまでにはないユニークな物流サービスが生まれる可能性がある。海事関係者の固定観念を覆すようなソリューションが出てくるかもしれない」

 「われわれにとっては脅威でもある。お金を払えば運航データに誰でもアクセスできるようになる。これまで海運業をなりわいとしてこなかった人たちが、新しいサービスのアイデアを実現する可能性もある。世界の物流がクロスオーバーして、さらにユーザーフレンドリーなサービスに変貌していくかもしれない」

 「モノが動く場所が海であることは変わらないと思う。海が舞台である限り、先駆者メリットは生かせるだろう。フットワーク軽くいろいろなことにチャレンジしていきたい。難しいことだとは思うが、データを活用して物流イノベーションを起こしたい」

=おわり

 かわごえ・よしかず 83(昭和58)年東大工卒、大阪商船三井船舶(現商船三井)入社。11年技術部長、12年執行役員、16年常務執行役員。18年4月から現職。60歳。