2019 日本コンテナ航路一覧
 印刷 2019年08月21日デイリー版1面

MariTech×ShipDC 海事未来図】(8):日本郵船経営委員デジタライゼーショングループ長・鈴木英樹氏/デジタルで“三方良し”実現(その1)

日本郵船経営委員デジタライゼーショングループ長・鈴木英樹氏
日本郵船経営委員デジタライゼーショングループ長・鈴木英樹氏

 --デジタル化の意義をどう考えるか。

 「デジタル化そのものは目的ではない。マインドセット(思考様式)を切り替えていくことが、デジタル化の意義と捉えている。デジタル技術を使って、海運会社、船を建造する造船業界、顧客である荷主の“三方良し”の状況を目指すのがゴールだ」

 「日本郵船は好奇心旺盛な会社で、1986年に輸送技術研究所(現MTI)の前身である技術開発センターを設立した前後から、輸送に関わるデータを収集し続けている。つまり30年以上前から、ビッグデータやIoT(モノのインターネット化)につながる思想で輸送を研究してきた」

 「その原点には、われわれ自身の反省がある。海運会社の責務は、安全、確実にモノを届けること。しかし、実際の物流の中で、貨物がどのような状態にあるのかを把握できておらず、ブラックボックス化していた。自分たちの事業を正しく知るという好奇心に加え、顧客への説明責任を果たすために、輸送を科学しようという試みが始まった。貨物への衝撃、季節ごとの温度・湿度の変化などのデータを収集し、輸送状態を再現。より安全・確実な輸送を追求するという、日本郵船のDNAが具体化された取り組みだ」

 「2004年に輸送技術研究所がMTIに衣替えしてからは、貨物に加えて、船そのものに目を向けた。荒波の中、厚さ3センチメートルの鉄板を溶接した重構造物がどのような状態にあるのか。実海域での性能評価を一生懸命にやり、われわれ自身を丸裸にしようと取り組んできた結果が、船上データ収集システム『SIMS』などの技術につながっている」

■技術理解深める

 --船社として、自らの事業を数値化していった。

 「海運会社には海務・工務という、それぞれ船乗り・技師の専門家集団がおり、船の運航・管理や新造整備時に活躍する。しかし、顧客と対面し、財布(船舶発注などの予算)を握るのは営業部隊。顧客の荷物を確実にお届けするためにも、営業部隊も船という最大資産についての知識を深めていくことが重要だ。営業担当者が技術に関してある程度の知識を持って、海務・工務と議論できなければ、優れた船舶・運航は実現しない。顧客に対しても、現場が技術を理解して、自信を持って薦めることができれば、言葉の持つ温度が全く違ってくる」

 「船舶はプラント(工場のような大型設備)であり、竣工後も細やかなメンテナンスを続けながら、徐々にコンディションを調整していく。営業陣がそういう技術の前提を理解せず、自動車や家電のような感覚で捉えてしまうと、不具合が生じた時に一方的に無責任なことを言うだけの存在になってしまう。それでは絶対に船の品質は向上しない」

 「一方、製造者側に目を向けると、例えば家電メーカーは、自分自身が生活の中でユーザーになる視点で製品を作れる。しかし、残念ながら造船会社・舶用メーカーは、自分たちで製品を使わない。海上公試を行い、引き渡しておしまい、というケースがほとんどだ。実海域で船がどう動き、どのような不具合が起きるのかということについて、関心が薄かったのは事実だろう。使う側と作る側に共通のマインドセット・言語がないという問題があった」

 「造船所としても、アフターサービス自体は収益につながらないし、次の船を造らなければならない。修繕は海外ヤードに任せることが多い。しかし、船を造る人たちのプライドとして、想定した性能が出なかった際にどうしたら良くなるのかを追求する姿勢が重要だろう。そのためには絶対にデータが必要となる。データという非常に中立的な存在を通じて、はじめて作る側・使う側、皆が同じ目線で会話することができる」

■共通言語で前進

 「ただ、データにも『方言』のような細かな違いはあり、例えば古い技術についてはお互い会話が通じないような事態も起きる。シップデータセンター(ShipDC)によるIoS-OP(IoS〈船のインターネット化〉オープンプラットフォーム)が稼働し、関係者が標準化された言葉で話し始めることには大きな意義がある。造船所の方々も、設計時や海上公試と実海域のデータの違いを目の当たりにすれば、マインドセットが変わってくるはずだ。共通言語で語り、先へ進むためのスタート地点に、ようやく立ちつつある」

 「データがオープンになれば、レーティング(格付け)が進む。その中で、生き残っていくのは、一生懸命、きちんとやっている人たちだ。頑張っている人が報われるのが、データによる透明性の高い世界だ。ShipDCにより、そういう世界がやってくるだろう。逆に、いい加減な企業は脱落していく」

 「日本郵船は130年の歴史を有し、世界一の船会社という自負があるが、データが明らかになることで実はそうではないことが分かるのでは、という恐怖心はある。慢心もあるかもしれない。データが、ある意味でわれわれの会社も変えてくれるきっかけになる。もう一度足元を見て、一生懸命足腰を鍛えなければならない。そういう時代になっている」(2面に続く)

 すずき・ひでき 87(昭和62)年国際基督教大教養卒、日本郵船入社。15年NYKグループヨーロッパ出向。18年NYKライン(ノースアメリカ)出向・チーフイノベーションオフィサー就任。19年4月から現職。56歳。