新時代のLNG船ビジネス
 印刷 2019年08月14日デイリー版1面

MariTech×ShipDC 海事未来図】(7):今治造船専務取締役・藤田均氏/デジタルツインで設計最適化

今治造船専務取締役・藤田均氏
今治造船専務取締役・藤田均氏

 --今治造船でのデジタル化に関する取り組みについて聞きたい。

 「当社は急速に建造量を拡大した。これに対応するため、データ処理能力の向上、ビッグデータの活用が求められている。設計に関しては、設計期間短縮に焦点を当てている。同時に、3D(3次元)設計を活用した現場工数低減に向けた生産情報の提供も進めている。製造面では、コスト最適化に向けた工程シミュレーション実施、少人数による納期・物流管理などに取り組んでいる」

■飛躍的スピード

 --造船業界でデジタル化はどう進んでいるか。

 「『デジタル化の進展』は、『コンピューターの処理能力が急速に大きくなること』と理解している。これまで時間がかかり過ぎてできなかったことが、今は短時間で処理できるようになった。この意味で、設計分野ではデジタル化がかなり進んでいるのではないか。例えば、船型開発の出発点となるライン図(線図)を作成する場合、一昔前には流体力学を勉強した熟練者がバッテン(『くじら』とも呼ばれる錘(おもり)とプラスチック製の自在定規を使って手描きしていた。この場合、1隻の開発に1カ月程度の時間がかかっていた」

 「流体運動を支配する基礎方程式を、高速の大型コンピューターを用いた数値計算で直接解いて水の流れなどを明らかにするCFD(数値流体力学)の導入により、当初は1隻当たり1週間、その後は同2-3時間までにスピードが向上した」

 「現在は、CFD計算と、最適化手法を組み込んだ遺伝アルゴリズムを使えば、3日間位で100隻以上の計算が可能となった。まだCFD計算だけでは性能保証できる精度ではないため、この計算結果の中から優秀な船型を選び、水槽試験でその性能を確認することになる。デジタル化により船型検討する領域が大幅に広くなったと言える」

 「構造解析では、以前は電卓をたたきながら部材一つ一つの強度を計算していた。今は、3Dモデルを用いたFEM(有限要素法)解析により、船全体の構造部材について強度解析ができる」

 「今研究が行われているのが『デジタルツイン』。仮想空間を使ったシミュレーション技術とでも言えようか。流体計算のCFDを活用した船体運動と、構造計算のFEMとを組み合わせ、最適設計を行うことを目指している。新しい設計手法と言える。設計分野ではこのような領域に入っている」

 「製造分野の手前の工程として、生産設計(部品展開)という段階がある。ここでは、3Dシステムによるデジタル化が定着している。合理的な3Dシステムが開発されているほか、例えば、鉄板をこういう形で切り、こういう形に曲げるという3Dモデルを利用した工作現場への加工情報提供も進んでいる」

 「製造分野のデジタル化は、コスト最適化に向けた工程シミュレーション、少人数による納期・物流管理、など限られた部分にとどまっている。ベルトコンベヤーによる組み立て作業が行われる自動車産業と比べると、造船は受注生産で、製品が巨大なこともあり、デジタル化をフルに活用できるロボット化などは相対的に進んでいない。配材、組み立て、運搬などでは人手が必要となっている。製造分野でデジタル化をどう使うかは、巨額の投資が必要なロボット化と合わせて課題の一つと考える」

■ウィンウィン構築

 --日本の海事産業に関するデータ共有基盤『IoS(船のインターネット化)オープンプラットフォーム』(IoS-OP)に参画した理由は何か。さらに、IoS-OPに何を期待するか。

 「IoS-OPが目指すのは、実運航船から得られるビッグデータの活用。これにより、船主、オペレーター、造船所、舶用機器メーカーなど海事クラスターのメンバーがウィンウィンの関係を構築できる。この考え方に賛同して参加を決めた。造船として期待するのは、船の品質・信頼性を向上させる情報。例えば、起きてほしくないがトラブル・損傷に関するものがその一つになる」

 「造船とは関係ないため勝手な言い分となるが、航路ごとに、この季節にこのルートを運航すれば燃費削減につながるというような情報を、ビッグデータを解析し船社全体で共有する、または船社間でこのようなテーマをリアルタイムで情報交換できるような仕組みがIoS-OPを通じてできればよい。海事産業全体で環境負荷軽減に取り組んでいると社会に発信することもでき、海事産業のPRにつながる」

 「燃費などの性能面については、現時点では、のべつ幕なしにオープンデータとすべきではないと考える。海運、造船、舶用工業、関係機関25者でスタートした『実海域実船性能評価プロジェクト』が現在、実際に船が運航される波や風のある海域での速力、燃費などの性能を正確に評価する手法(物差し)を開発している。IoS-OPではまず、この『物差し』の妥当性検証を行ってほしい」

 「このように、海事産業全体が一緒になって、新しい技術を発展・認知し、情報を共有化することにより、新しい輸送体系や未来の船の姿を創造できるようになるのではないかと思う」(週1回掲載)

 ふじた・ひとし 81(昭和56)年大阪大工卒、今治造船入社。10年取締役、12年常務取締役を経て、18年から現職。香川県出身、63歳。