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 印刷 2019年07月11日デイリー版4面

記者の視点】柏井あづみ:トレーディングの思考/海外エキスパートの知見吸収が解に

 「日本人のように空気を読むことをしない海外スタッフと新しいアイデアについて議論をすると、“なぜ”を繰り返すことで、できない理由がどんどん無くなっていく」

 世界最大級のLNG(液化天然ガス)・石炭トレーディング会社JERAグローバルマーケッツ(JERAGM)の葛西和範CEO(最高経営責任者)にシンガポールで話を聞いたとき、この言葉が印象に残った。

 JERAGMは、東京電力フュエル&パワーと中部電力の発電事業会社JERAと、英EDFトレーディング(EDFT)のシンガポール合弁会社。

 葛西氏は「企業風土の改革が、トレーディングそのものよりも意義があった」と確かな手応えを語る。

 市場関係者によると、JERAの前身である中部電力が燃料トレーディングに挑戦した背景には、電力自由化を契機とする強い危機感があった。

 中部電力は地理的に東京電力、関西電力という東西の巨人に挟まれている。東日本大震災以前、原子力発電の比率が高い東電、関電の発電コストは圧倒的な競争力を誇っていた。

 2000年前後に電力自由化の機運が高まり始めた時、中電は東西からのみ込まれてしまう恐れを感じていたそうだ。だからこそ、グローバル燃料市場に乗り出し、EDFTというパートナーからトレーディング手法を吸収しながら新しいビジネスモデルに挑んできた。

 16年4月に国内電力は小売りへの参入が全面自由化され、電力会社のマージンは縮小している。かつての電気料金は規制料金でコスト変動を反映できたが、いまはマーケット化で上下する。さらに日本の電力需要と電源構成は、少子高齢化や再生可能エネルギーの台頭、原発停止などにより見通しが立ちにくい。

 葛西氏は「マーケットで恒常的に燃料を売買することで、不確実性への耐久力を高める」とトレーディングの主眼を語る。

 この説明を聞いたとき、海運の置かれている状況と同じだと感じた。

 資源エネルギーのコモディティー(一般商品)化により、用船期間の短期化が進行し、海運会社はこれまで以上にマーケット変動リスクに直面している。

 対策としてここ数年、邦船社はマーケットのボラティリティー(変動性)との接点を極力避け、長期安定収益ビジネスに傾注してきた。リーマン・ショック以降、企業体力が落ちている中での合理的な選択肢ではある。ただ、優良な長期契約は限られているし、半ばマーケットに背を向けることで、世界に取り残されてしまう恐れはないだろうか。

 トレーディングは、自らをマーケットの一部とすることで、荒々しい市況変動と波長を合わせ、リスクを管理する手法だ。

 コモディティー化が避けられない潮流ならば、邦船社もトレーディングの思考を取り入れることが一つの解となり得る。

 トレーディング会社の日々の活動は、徹底したリスク管理に裏打ちされている。

 JERAGMは、スポット価格や先物価格を基に全ての契約を日々、時価評価することで、リスクを見える化し、各担当者があらゆる選択において収益性を意識することを可能としている。先物取引をはじめデリバティブ(金融派生商品)もリスクヘッジのために積極活用する。

 葛西氏の言葉の通り、新しいビジネスモデルの導入は、企業風土の改革を意味する。

 そのためには荒療治として、海外のエキスパートを招き入れることが最も近道になる。JERAGMのトレーディングの現場を率いるのは、米モルガンスタンレーや英蘭シェル、ビトール(本社・スイス)で活躍していたプロフェッショナルたちだ。

 葛西氏は「外部から人材が入ると波風は立つ。4月からLNG事業を始めて、予想通りもめている」と苦笑するが、その摩擦こそが企業風土改革の証しといえる。

 邦船社もトレーディングやFFA(運賃先物取引)にたけた海外の人材を登用してみてはどうだろうか。欧米流が全て正しいわけではないが、グローバル市場の泳ぎ方を熟知した達人から謙虚に学ぶ姿勢も必要と考える。