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 印刷 2019年07月09日デイリー版2面

Close upこの人】JERAグローバルマーケッツCEO(最高経営責任者)・葛西和範氏/“空気を読まない”自律型集団。LNG市場のゲームチェンジャーに

JERAグローバルマーケッツCEO・葛西和範氏
JERAグローバルマーケッツCEO・葛西和範氏

 東京電力フュエル&パワーと中部電力の発電事業会社JERAと英EDFトレーディング(EDFT)のシンガポール合弁会社「JERAグローバルマーケッツ」(JERAGM)のトップに4月1日付で就任した。

 JERAGMは、JERAの世界最大級のLNG(液化天然ガス)・石炭取扱量に、EDFTのトレーディングの知見を組み合わせ、燃料調達の最適化を追求する。

 葛西和範氏は中部電力時代にJERAGMの前身「中部エネルギートレーディングシンガポール」の設立に携わり、2017年にEDFT石炭事業の買収、18年には同LNG事業の買収を主導した。

 ここまでの手応えについて「企業風土の改革がトレーディングそのものよりも意義があった」と評価する。

 JERAGMのスタッフ140人強の出身国は日本、シンガポールだけでなく、アジアや欧米など19カ国に及ぶ。

 「新しいアイデアを話し合う時、日本では一度できない理由が出てくると、それで議論が終わってしまいがちだ。しかし、海外スタッフは空気を読まず、次から次へと『こうすればできるのでは』と問いかけてくる。3回、なぜを繰り返すと、不思議とできない理由がなくなっている」

 従来の日本の電力会社とトレーディング会社の性質について「実業団野球チームとプロサッカーチームの違い」と例える。

 野球チームは監督のサインに従いプレーし、ピンチになるとタイムがとれる。一方、サッカーは笛が一度鳴ったらプレーヤーが自ら判断し、フィールドで意思疎通しながら試合を進める。

 プレーヤー一人一人の能力は変わらないが、「野球経験者だけで強いサッカーチームはつくれない」と、新しい企業文化を取り入れる必要性を説く。

 JERAGMの燃料トレーディングの現場では、担当者は個々の取引の損は許容されるが、1年を通した結果の責任を負う。

 「つまり“損して得を取る”取引を行うことができる。相撲で言えば、15連勝を求めるのではなく、9勝6敗でもいい」

 理想的なマーケット状態はいつも起きるわけではない。しかし、「3日だけ、1週間だけというレンジでは実際に起こる」。

 今までの電力会社のスピードでは社内検討の間にマーケット状況が変化してしまうが、JERAGMではトレーディング担当者が朝から晩までマーケットを見て機敏にチャンスを捉え、デリバティブでリスクヘッジを掛けていく。

 トレーダーの権限は大きく、日本企業なら通常、取締役会に諮る規模の取引を現場で判断する局面もある。

 トレーダーに権限を移譲するための前提として「ここまでなら取引していいという枠を厳密に決め、その上で取引の監視と、時価評価によるリスクの見える化が欠かせない」。

 JERAGMではトレーディング用に最適化したITシステムの開発に10億円、運用に年5億円を投じ、専任スタッフ15人が従事している。

 葛西氏はJERAGMのトレーディング市場での成長について「目指す方向はポートフォリオプレーヤー」と話す。

 ポートフォリオプレーヤーは多角的なLNG供給源・供給先を有し、取扱数量や販路の面でフレキシビリティーを発揮する存在。

 これまでは英蘭シェルや英BP、仏トタルなどの欧米メジャーをはじめとするLNG供給者側がトレーディング市場を積極活用し、ポートフォリオプレーヤーとして成長してきた。

 JERAGMは火力発電事業者という買い手側からのアプローチでポートフォリオプレーヤーとして台頭を目指す。

 「LNGトレーディング市場がさらに発達していく上では、バイヤーからの参画が欠かせない。JERAGMの存在がゲームチェンジャーとなり得る」と意気込みを見せる。

 かさい・かずのり 90(平成2)年東大法卒、中部電力入社。07年本店燃料部計画グループ課長、08年中電エネルギートレーディング企画部長、12年中部エネルギートレーディングシンガポールマネジングディレクター、15年JERA企画・最適化部長。今年4月から現職。愛知県出身、52歳。

(柏井あづみ)