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 印刷 2019年06月24日デイリー版2面

国内船主の今】(171):海事クラスター流出/カタール商談参戦なく

■造船所の近くへ

 6月20日、東京都内。

 舶用メーカー関係者がため息交じりにつぶやく。

 「日本の海事クラスターの崩壊といえば大げさだが、邦船オペレーター(運航船社)を頂点にしたもたれ合いが維持できなくなっただけ。オペ、船主、造船ばかりが海事クラスターの主人公ではない」(舶用メーカーの営業マン)

 日本の海事クラスターとは端的に言えば、日本船主が新造船を発注、日本造船がこれを受注し邦船オペが定期用船する。

 建造資金は地方銀行が貸し付け、舶用部品は日本のメーカーを指定、船体保険も日本の損保がカバーする。

 こうしたオール・ジャパンで完結するのが日本型海事クラスターの真骨頂だ。

 海事クラスターの崩壊は、オペ、船主、造船の3大主役以外、すなわち舶用メーカーや損保の動向からも感じることができる。「神は細部に宿る」を地でいくパターンだ。

 商社関係者が話す。

 「例えばBBC(裸用船)取引。この場合、日本船主が登記上の船舶保有者であっても船舶管理、運航を一手に引き受ける欧州オペレーター、ギリシャ船主が船体保険を指定するケースがある。彼らが指定するのはもちろん、日本以外、海外の保険会社ということもある」(船舶部)

 「日本以外もある」と言えば聞こえはいいが。実際には海外オペ、ギリシャ船主は大半が海外の保険会社でカバーするとの見方もある。

 海外に流出する商権は船体保険ばかりではない。

 舶用メーカーも生き残りをかけ海外進出をもくろむ。

 冒頭の舶用メーカー関係者が話す。

 「われわれは常に造船所に近いところで営業するのが基本。中国の造船所の受注が増えれば、当然、そちらにシフトしなければならない」(営業担当者)

 中国シフトが奏功すれば問題ない。しかし、中国造船所はそう簡単に日本の舶用メーカーを選択しない。たとえ船主の指定メーカーであっても「コスト面で最終的に落とされることもある」(同)

 日本型海事クラスターの崩壊はいや応なく日本商権の海外流出につながる。

■数十年に一度の商機

 今回の大型商談で本当に日本の造船所は参戦するつもりがないのか-。

 邦船オペが半ば諦めの表情で疑問を呈した。

 中東カタールが進める新造LNG(液化天然ガス)商談。新造で40隻、代替を含めると合計100隻規模の大型商談になる見通し。

 カタールは現在、自国ガス田ノースフィールド拡張プロジェクトを推進中。2024年をめどにLNG生産能力を従来の年7700万トンから年1億1000万トンに高める計画だ。

 商社関係者が話す。

 「足元で新造LNG船商談を進めるのはカタールだけではない。アフリカのモザンビークLNGでも最大16隻のLNG船の需要が出る。数十年に一度かもしれない空前の新造LNG商談に日本造船が絡まないという選択肢があるのか」(船舶部)

 しかし、現実的には少なくともカタールの案件では日本の造船所が受注争いに本格参戦する気配は今のところない。

 造船関係者が話す。

 「新造LNG船では日本造船所は昨年までに納期の遅れなどで大きな損失を出している。造船所の中には『もうLNG船はやらない』と公言する会社もある」(大手造船)

 邦船オペも冷ややかだ。カタール、モザンビーク共にLNG船の選定では、プロジェクト側が海運、造船をそれぞれ別々に入札する「お見合い形式」が濃厚。

 「韓国造船の建造船を使うことを前提に計画を立てている」(海運大手幹部)という声が少なくないことは確かだ。

(国内船主取材班)

=毎週月曜掲載