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 印刷 2019年05月15日デイリー版2面

MariTech 海事未来図】(16):KDDI/船舶の衛星通信リード

ソリューション営業本部メディア営業部MSATサービス企画グループの山根グループリーダー
ソリューション営業本部メディア営業部MSATサービス企画グループの山根グループリーダー
地球全域を66機でカバーするイリジウムの衛星
地球全域を66機でカバーするイリジウムの衛星

■複数サービス対応

船舶向け衛星通信サービスの日本国内でのディストリビューター(販売代理業)を務めるKDDI。事業開始は1982年。インマルサット(英国)が米国のマリサット衛星を引き継いでサービスを開始したときにさかのぼる。

 それから30年以上、実績を積み重ね、取り扱うサービスも拡充。インマルサットに加え、イリジウム(米国)やVSAT用のインテルサット(米国)など、複数の衛星事業者サービスにも対応し、海運業界の衛星通信の分野をリードしている。

 「当社の船舶通信サービスの特長は何といってもその選択の幅の広さと、キャリアとして培ってきた各種ソリューションノウハウ。顧客のニーズに合わせ必要なサービスやソリューションを提供できる」

 ソリューション営業本部メディア営業部MSATサービス企画グループの山根弘之グループリーダーはこう語る。

 昨今、船舶の衛星通信業界では、圧倒的なシェアを誇る老舗インマルサットに対して、後発のイリジウムのプレゼンスが高まっている。

 イリジウムはこのほど、これまでインマルサットだけに与えられていたGMDSS(海上での遭難・安全に関する世界的制度)の認定を取得した。

 また、一昨年から進めていた衛星66機全ての最新ハイスペック衛星への入れ替えを完了。2月から新サービス「Certus(サータス)350」を開始した。

 サータスは地球上780キロメートルにある低軌道周回衛星による通信サービス。インマルサットなどの同3万6000キロメートル地点にある静止衛星よりも地球との距離が近いため、地球全域で静止衛星を使ったサービスと比べて極めて低い遅延での通信を可能とするほか、静止衛星ではカバーできない北・南極も対象領域とするなど、通信範囲も広い。

 月額料金はインマルサットの主力サービス「フリート・ブロードバンド(FB)」よりも安価。VSATサービスのバックアップ利用であれば、さらに料金を抑えることもできる。

 現在は外国籍船のみが対象だが、法改正を経た上で、年内にも日本籍船にもサービスが広がる見通し。

 KDDIはサータスの効果検証のために、実船でのトライアルも実施した。

 トライアルでは、コンテナ船に専用アンテナを搭載し、東京・タイ間を11日かけて航行し、その間の通信環境を確認。乗組員からは「遅延を感じず、会話しやすい」などの高評価を得たという。

 一方、高速定額ニーズに対してはインマルサット「フリート・エクスプレス」(FX)が好評を博している。

 このサービスは20-30ギガヘルツの周波帯Kaバンドを利用した第5世代の高速通信サービスに、雨天でも安定して電波を送受信できる1・5-1・6ギガヘルツのLバンドを利用した主力サービスである「フリート・ブロードバンド」(FB)を組み合わせることで高速性と安定性を追求したものだ。

 山根氏は「船舶にとって、安定的な通信環境の整備は極めて重要。当社は、両社を含む事業者のディストリビューターとして、顧客に最適なサービスを紹介していく」と語る。

■船員確保にも有効

 船内の通信環境の整備は運航時のみならず、船員の確保の観点からも重要だ。世界的にインターネットが普及し、生活に欠かせなくなった今、通信環境が不十分な船では、船員から乗船を拒まれる事態も想定される。

 山根氏は「福利厚生の一環でWi-Fiをはじめ、インターネットの利用などネットワーク環境をどう船内で整備するかが課題になっている。『アクセスポイント(AP)を船内のどこに設置するべきか』などの相談が、ここ数年で増えている」と説明する。

 船内通信の充実を図る際に、考慮しなければならないのはセキュリティーの担保だ。KDDIは広く産業界のセキュリティーニーズに応えるべく、セキュリティー専門企業「ラック」とともに、「KDDIデジタルセキュリティ」を設立。

 セキュリティーの必要性が求められる海運業に対してもトータルソリューションを提供するため、船社や船員に対し、船内通信のセキュリティーに関する啓発活動やコンサルティングを行っている。

 山根氏は「通信サービスに関するユーザーの関心事は、ナローバンドからブロードバンドへという技術的進展、従量制から定額制へという料金メニューの多様化などを経て、スパムメールからハッキングなどのセキュリティー対策へ移る。陸上で起こったこれらの変遷が今、同じように海上でも見られる」とし、陸上での知見も踏まえ、海上の衛星通信の諸課題に対処していくとした。