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 印刷 2019年05月14日デイリー版4面

新書見参】大山高明:第8回「見る読書」榊原英資著(ベスト新書、2018年7月発行、定価890円、税別)/達人の「見る読書」。「問題意識」を持ち、頭と心を信じて

「見る読書」_帯あり
「見る読書」_帯あり

 「読書論」や「読書術」に類する本は枚挙にいとまがない。書籍は当然読むものだが、それを「見る」とした書題の特異さにまず引かれた。著者は「まえがき」と「あとがき」と目次にざっと目を通すことによって、その本の概要を把握する。「本を見る」には付箋もノートも不要で、ただ必要なのは「問題意識」を持って自分の頭と心を信じて本を手にすることだという。

■「大局観」を身に付ける

 米国、欧州、中国、ロシアと各国・地域の思惑が錯綜(さくそう)して予測しにくい困難な時代に必要なのは「大局観」を身に付けることであり、そのよすがとなるものは歴史だけだ、と断言する。

 さらに「歴史は勝者がつづるものであり、例えば明治時代は徳川幕府を倒した薩摩藩と長州藩の歴史観でしかない。かの司馬遼太郎は小説『坂の上の雲』の中で「明治国家は清廉で透き通ったリアリズムを持っていた」と賛美しているが、明治初期に各地で頻発した学校打ち壊しも、西南戦争をはじめ佐賀の乱・神風連の乱・萩の乱といった士族反乱も「清廉で透き通った」などとは到底いえず、どろどろした明治国家の象徴的事件であり、「そこに目を配らない『司馬史観』を私は信用していません」とまで述べている。

 また、やおよろずの神の国、いわゆる多神教の日本と一神教の西欧諸国のどちらが良いとは言わないが、一神教同士の争いには多神教の日本が調停者として買って出てはどうか、とも提言する。

■成熟期に必要な生き方

 そして、最後に「売上高や所得の伸びなど気にせず、生活の質を向上させ、心の豊かさを育み、カネやモノに左右されない本当の幸せを手にすることこそ、成熟期に生きる私たちに最も必要とされる生き方ではないでしょうか。読書はそんな生き方に絶対必要不可欠なものだ」と結んでいる。

 一見平凡のようだが、深い読書経験を経た著者ならではの知見の発露であろう。料理を「目で食べる」と言った食の達人もいたが、それと同じように「見る読書」というのも達人の言い回しなのであろう。

 20年ほど前、財務官まで上り詰めた著者は「ミスター円」とテレビなどのマスコミに引っ張りだこだったが、当時は刻々変化する経済に対しての論が「時代に迎合している」と批判されたこともあったようだ。その著者が古希を過ぎて著したこの読書論の方が安心して万人に受け入れられると感じるのは筆者だけではあるまい。

(随時掲載)

 「知は力なり」と言ったのは16世紀の英国の哲学者フランシス・ベーコンだ。知を獲得するには読書が手っ取り早い。しかし読書もままならないという多忙なビジネスマンも多いはずだ。そこで手軽な新書が注目される。現在20社近くの出版社から毎月150冊ほどの新書が出版されているそうだが、その内容は玉石混交だ。そこで筆者の独断ではあるが印象的な一冊を紹介させていただく。参考に供していただければ幸いです。

 日本海事新聞社代表取締役会長兼社長・大山高明