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 印刷 2019年05月12日別版特集2面

海上保安庁特集】インタビュー:岩並秀一・海上保安庁長官/領海警備と海洋権益の保全へ。業務基盤の充実図る

海上保安庁長官・岩並秀一氏
海上保安庁長官・岩並秀一氏

 日本周辺海域を取り巻く状況が厳しくなる一方で、昨年は多くの自然災害が発生し、救助任務などに従事した海上保安庁の重要性は増している。こうした中、岩並秀一長官に2019年度の抱負や今後の課題などについて聞いた。(4月25日収録)

■期待の大きさを実感

 --就任初年度である昨年度を振り返るとともに、19年度の抱負をうかがいたい。

 「昨年度は、海上保安制度創設70周年、灯台150周年の節目の年でもあった。5月には東京湾で海上保安制度創設70周年記念観閲式と総合訓練を実施した。高円宮妃久子さまと絢子さまに出席いただくとともに、安倍晋三首相、石井啓一国土交通相も出席した。人命救助、テロ容疑船捕捉・制圧訓練など日頃の訓練の成果を披露した」

 「また6月には天皇、皇后両陛下に出席いただき、三権の長も参加し、海上保安制度創設70周年記念式典を盛大に挙行した。11月には、皇太子、雅子さまに出席いただき、灯台150周年記念式典を滞りなく挙行することができた。これらの行事を通じて、多くの方々から激励やねぎらいの言葉をいただき、海上保安庁に寄せられる期待の大きさとその責務の重さを改めて感じた」

 「新年度では、引き続き、領海警備と海洋権益の保全に全力を尽くす。わが国周辺海域を見ると、尖閣諸島周辺海域で繰り返される中国公船による領海侵入、日本海での北朝鮮漁船の違法操業などが目立つ。北朝鮮からのものと思われる漂流・漂着木造船の急増、外国海洋調査船によるわが国の同意のない調査活動の多発など過去に類を見ないほど厳しい状況だ」

 「このような状況を踏まえ、16年12月に海上保安体制強化に関する関係閣僚会議で『海上保安体制強化に関する方針』が策定された。同方針に基づいて増強に着手した船艇、航空機の第1陣として、ヘリコプター搭載型巡視船を含む大型巡視船4隻、大型測量船1隻、新型ジェット機1機が19年度に就役予定だ。これらの装備を最大限活用するとともに、海上で発生する変化・異常を早期に捉えて的確に対応し、領海警備と海洋権益の保全に注力する」

 「今年6月にG20(20カ国・地域)大阪サミット、来年は東京五輪・パラリンピックの開催が迫っている。依然として厳しい国際テロ情勢の中、会議場・競技場だけでなく、他の重要施設やソフトターゲットを含めたテロの未然防止が重要な課題であり、関係機関と緊密に連携し、海上警備に万全を期す」

 「また5月1日から新元号『令和』という新しい時代が幕を開ける。新元号の由来は『万葉集』の梅花の歌からきているとのことだが、海上保安庁の徽章も『梅の花』である。今後も当庁では、その時代の情勢に応じて、国民の皆さまの安心、安全を確保するため、創設以来脈々と受け継がれる『正義仁愛』の精神を胸に、職員一丸となって任務を全うしていきたい」

 --過去最大となった19年度の予算概要と重点項目は。

 「海上保安業務全般を適切に遂行するために必要な経費として、約2178億円(前年度比65億円増)を計上した。重点項目としては、ヘリコプター搭載型巡視船を含む大型巡視船や新型ジェット機などの整備を進め、映像伝送機能の強化、海上保安学校の要員養成機能を向上させる。海洋状況把握(MDA)の能力強化に向けた取り組みとして、海洋状況表示システムの機能強化を図っていく」

 「国民の安全・安心を守る業務基盤の充実・強化のため、治安・救難・防災業務の充実・強化として巡視船艇・航空機の老朽代替整備に加え、救難資機材の購入や航空機腐食対策なども強化する」

 「今年度は燃料費や修繕費など船舶、航空機の運航に必要な運航費も増額した。さらに海洋調査体制強化の一環として、当庁として、初めて測量用の中型飛行機導入にかかる経費を計上した」

■災害救助活動に尽力

 --昨年度は自然災害が多発したが、改めて海保庁の災害対応について教えてほしい。

 「昨年は7月に西日本豪雨、9月には西日本を中心に被害をもたらした台風21号、同月に北海道地震が発生した。こうした自然災害に対応するため、当庁は海上だけではなく、陸上の自然災害に対しても巡視船艇・航空機の機動力や自己完結能力、特殊救難隊、機動救難士などの救助技能を活用し、政府の一員として被災者の救出、行方不明者などの捜索・救助に全力を尽くしている」

 「台風21号では、暴風の影響により関西国際空港周辺海域でタンカーが走錨、同空港連絡橋に接触する事故が発生した。直ちに関西空港海上保安航空基地から航空機を派遣するなどして乗組員11人を救助した。こうした走錨を原因とした海難事故を防ぐために有識者会議を設置し、対策を講じたところだ」

 --海洋状況表示システムが4月から運用を開始したが、同システムへの期待や今後のビジョンは。

 「海洋状況表示システム(愛称・海しる)は、関係機関の垣根を越え、情報の集約から共有を一手に担い、政府関係者から一般の方々まで幅広く利用できるとともに、海に関するさまざまな情報を入手することができる」

 「『海しる』では、船舶運航管理や漁業、防災、海洋開発などの利用目的に合わせリアルタイムを含めた必要な情報を幾重にも重ねて表示することから、利用者がこれまで認知していなかった情報に触れることができ、より迅速かつ効果的に情報を入手することができるようになった」

 「これにより、生産性の向上や新たな産業の掘り起こしに寄与するほか、マリンレジャーでの安全性の向上など幅広い分野での活用が期待されている。そのためには、まず『海しる』の利便性を関係機関や国民の皆さまに伝えることが必要と考えており、今後、積極的に周知していきたい」

 --女性初の管区本部の部長誕生など女性の活躍が目覚しいが、女性活用に向けた取り組みについて教えてもらいたい。

 「当庁の女性職員は巡視船艇・航空機といった現場第一線での業務をはじめ、海洋調査、海上交通管制などの専門的業務や総務系業務に至るまで、あらゆる職域で活躍している。4月には海上保安大学校出身として初の管区本部の部長や保安部警備救難課長、保安学校出身初の保安部次長が新たに誕生した」

 「現場では新たに4人の女性船長が誕生し、全国で計5人の女性船長が海を舞台に、空では2人の女性機長が活躍している」

 「現在活躍中の女性職員は4月時点で979人(全体の6・9%)、育休中などの職員を含めると1059人(同7・5%)に上る。育休などを含めた女性職員数は、昨年の同時期と比べ77人(7・8%)増加している」

 「女性職員の半数は20代であり、今後彼女たちが結婚・出産といったライフイベントの後も働き続けていけるように、仕事と家庭の両立支援制度(育休など)の利用促進など全庁を挙げて推進していく」

 「女性の活用については、『海上保安庁女性職員活躍・ワークライフバランス推進本部』を設置し、巡視船で女性に配慮した設備を整備するほか、職員、学生に対する研修の実施といった女性職員が活躍できる職場環境の整備をより一層進めているところだ」

■各国と連携強化推進

 --海上保安業務が多様化・グローバル化する中、国際連携分野の重点分野について教えてほしい。

 「『自由で開かれたインド太平洋』の実現という政府方針の下、法の支配に基づく海洋秩序維持のための取り組みとして、各国の海上保安機関との連携強化や能力向上支援を推進している」

 「昨年11月には、17年の世界海上保安機関長官級会合に引き続き、世界66の国と国際機関などの参加を得て、世界海上保安機関実務者会合を日本財団と共催し、今年日本で第2回世界海上保安機関長官級会合を開催することが決定した」

 「また各国の海上保安能力向上のため、17年10月に能力向上支援の専従部門『海上保安庁モバイルコーポレーションチーム』を発足した。これまで東南アジア諸国など 9カ国に21回、延べ73人の職員を派遣。発足当初は7人だった専従職員も、今年から10人に増員し、質的にも量的にも充実することが期待されている」

 「さらに、国際関係業務の拡大に対応するため、今年度から本庁に新たな課長職として『国際戦略官』を設置した。国際犯罪や大規模災害など、さまざまな脅威が国境を越えて広がっており、当庁が活躍する場所・業務が広がるにつれて国際業務の重要性は日を追うごとに増している」

 「このような海上の脅威には一義的には各国の海上保安機関が対応することになるが、沿岸国一国だけで対応することは困難であり、各国の海上保安機関の能力向上とともに、各海上保安機関の国境を越えた連携・協力が必要不可欠である」

 「今後とも、各国海上保安機関の連携強化と能力向上支援に努めるとともに、『海上における法の支配』の体現者として、世界の海上保安機関の模範となるべく努めていく」

 【プロフィール】

 いわなみ・しゅういち 81(昭和56)年海上保安大学校本科卒、海上保安庁へ。16年警備救難部長、17年海上保安監。18年7月から現職。東京都出身。60歳。