電子版6つのNEW
 印刷 2019年03月27日別版特集2面

海とエネルギー特集】洋上風力、巨大市場が誕生/海事産業に新たな商機

洋上風力のイメージ写真
洋上風力のイメージ写真
主な洋上風力発電の導入計画(環境アセスメント手続き中)
主な洋上風力発電の導入計画(環境アセスメント手続き中)

 日本の洋上風力発電が成長市場として注目を集めている。この4月施行の「洋上新法」を追い風に現在、日本の周辺海域で計500万キロワット超の洋上風力プロジェクトが計画されており、5メガワット級風車1000本以上の需要に相当。海運業界には洋上での据え付け作業や工事サポート、ブレード(羽根)やタービンなどの海上輸送、メンテナンスなどの新規ビジネス創出が期待されている。

■今まさに離陸直前

 「日本のオフショア風力発電マーケットは今まさに離陸直前。わくわくするような状況だ。2028-29年には4ギガ-5ギガワット(400万キロ-500万キロワット)規模に成長しているだろう」

 洋上風力発電メーカー世界最大手シーメンス・ガメサのイエンス・オルセン上席執行役員は、東京都で2月下旬開催された風力発電展でそう語った。

 三菱重工業とヴェスタス(デンマーク)の合弁による洋上風力発電専業会社MHIヴェスタス・オフショアウインドのラース・ボンド・クロスガード共同CEO(最高経営責任者)も日本市場について「未来は明るい。風資源が豊富で、エネルギー需要が大きく、沿岸部に人口が集中している」と成長への強い期待を口にする。

 既に国内の陸上風力は政府が12年に開始したFIT(エネルギー固定価格買い取り)制度により、マーケットが急拡大。風力発電国内最大手ユーラスエナジーホールディングスの稲角秀幸社長は「ここ6-7年で爆発的に追い風が吹いている」と話す。

 日本風力発電協会によると、昨年末時点で陸上風力発電の導入実績は2300基強、360万キロワット強に達する。

 一方、洋上風力の導入実績はすべて国の実証事業で6基、2万キロワットにとどまる。

■新法が起爆剤

 洋上風力の起爆剤となり得るのが、一般海域(領海・内水のうち漁港・港湾区域などを除く海域)の利用環境を整える「洋上新法」(4月上旬施行予定)だ。

 正式名称は「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」。発電ポテンシャルの高い一般海域において、FITの認定を受けた洋上風力プロジェクトが最大30年間の占用許可を得る道筋が開ける。

■伝統的な意識

 日本は伝統的に「海は皆のもの」という意識があり、これまで一般海域の長期占有に関する統一ルールがなかった。従来の都道府県条例に基づく一般海域の占有許可は3-5年程度にとどまり、長期プロジェクトの洋上風力事業化へのハードルは高かった。

 洋上新法は、まず国が洋上風力の「促進区域」を指定し、海運業や漁業など先行利用者との調整の枠組みを定めた上で、専用事業者を公募で選定する。促進区域は30年度までに5区域が指定される見通しだ。

 洋上新法を見据えて北海道、東北、九州で多くの新規プロジェクトが生まれようとしている。国土交通省と経済産業省の集計によると、昨年11月末時点で国内の洋上風力13プロジェクト、計537万キロワットが環境アセスに入っており、このうち港湾区域が55万キロワット、一般海域が482万キロワットを占める。

■欧州で4500基以上

 世界風力会議(GWEC)の集計によると、世界の洋上風力発電は18年末時点で2300万キロワット(前年比0・5%増)。欧州風力協会によると、このうち欧州エリアが1850万キロワットを占めており、4500基以上が稼働している。発電機メーカーは独シーメンスがトップ、MHIヴェスタスが2位、米ゼネラルエレクトリック(GE)、日立製作所と続く。

 風力発電普及の最大の課題はコストだ。欧州マーケットは補助金からの脱却が進み、競争入札制度の導入によりコスト削減圧力が高まっている。

 ユーラスの稲角社長は国内の陸上風力発電コストが米国の3倍超であることを踏まえ「洋上の方が陸上よりもコスト高。陸上が他電源と伍(ご)していけないと洋上も拡大しない」と語る。

 GE再生可能エネルギー部門デジタルサービス事業のアン・マクエンティCEOは運用・メンテナンスのコスト低減に向けた「デジタル技術、ビッグデータ活用」を鍵に挙げる。

 さらに「ロジスティックスコスト」も課題に挙げ、技術革新によりブレードや支柱部の大型化が進む中で「アクセスの難しいエリアへの輸送が複雑化している」と話す。

 シーメンス・ガメサのオルセン氏は「洋上風力が一夜にして実現することはなく、普及のためのインフラ整備が欠かせない」と洋上工事や保守管理を支える港湾・サプライチェーン整備の重要性を訴える。

 楽観的な声もある。MHIヴェスタスのクロスガード氏は「欧州では過去4-5年でコストが改善し、グリッドパリティー(既存の電力コストと同等の状態)に近づいている。台湾、中国での普及も始まり、日本の洋上風力もコストメリットを享受できる」と述べ、「これから洋上風力は真のグローバル産業になる」とポジティブな見通しを強調する。

■浮体式の可能性

 洋上風力の工法には「着床式」と「浮体式」の2通りがある。着床式は基礎部分を海底に固定するやり方。一方、浮体式は洋上に風車を浮かべて海底からのワイヤーに係留する。

 遠浅の海岸が多い欧州の洋上風力4500基超はほとんどが着床式。一方、日本は海底の地形が急に深くなるエリアが多く、大水深に対応可能な浮体式の潜在需要が大きい。

 現在、福島沖や北九州沖で浮体式の実証試験が進行中。環境省の試算によると、日本での浮体式の普及ポテンシャルは、陸上・着床式洋上風車の合計の2倍強に達する。

 浮体式は世界での実例が少なく、技術面で発展途上の新分野。波浪による動揺などの課題があり、豊富な海洋の知見を有する日本の海事クラスターが技術力を発揮する余地がありそうだ。