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 印刷 2019年03月25日別版特集2面

アジア物流特集】転換期迎えた中国物流市場/変わるモノの流れ。構造変化、進む生産シフト

海上輸送への米中貿易摩擦の影響は中長期に及ぶ
海上輸送への米中貿易摩擦の影響は中長期に及ぶ
表・グラフ 表・グラフ

 中国物流が転換期を迎えている。米中貿易摩擦が東南アジアへの生産シフトを加速し、モノの流れの変化が進む。物流市場が急拡大する時代は終わり、新興国型から先進国型へ構造が変化。一方では不動産価格や人件費の上昇が物流企業の経営を圧迫している。中国物流の現状を紹介する。

 3月1日、米通商代表部(USTR)の発表に、海運関係者は胸をなで下ろした。USTRが2日に予定していた中国製品に対する2000億ドル(約23兆円)相当の追加関税の引き上げ延期を正式に表明したからだ。

 米中間の貿易問題は、昨年夏ごろから全面戦争の様相を呈し始めた。世界経済の不透明要因になっているばかりか、国際輸送の荷動きにも影響。特に経済情勢を敏感に反映する航空貨物で顕著になっている。

 昨年9月以降、ある大手フォワーダーの中国発着航空貨物取扱量は輸出入ともに減少している。スマートフォンの販売低迷や半導体関連の需要減に加え、関係者は「貿易戦争が直撃している」と肩を落とす。別の大手フォワーダーの幹部は「今年に入って影響が相当大きくなっている」と顔をしかめる。

 海上貨物では、昨年末から今年にかけて荷動きに減速感が出てきた。中国発米国向けの駆け込み出荷も発生したが、その反動もあって春節明けの荷動きが鈍化している。

 それでも、通年では今年の荷動きを前年並みまたは増加と予想する船社・フォワーダーは多い。「追加関税の引き上げ延期は問題の先送りであり、米中貿易摩擦の影響は心理的なものを含めて中長期に及ぶ。物量が急に増えることも減ることもないだろう」(中国船社関係者)「中国発着の荷動きの伸び率は鈍化しても、安定的に拡大していく」(大手物流企業関係者)との見立てだ。

 関税が引き上げられたからといって、一朝一夕に生産拠点を移転できるわけではない。中国での生産量を全て代替できる国・地域もないと言っていい。また、中国政府の景気刺激策が奏功し、「短期的には、荷動きは下期(6-12月)から回復に向かうのではないか」(大手物流企業幹部)と、政府の舵取りに期待する向きも多い。

 何よりも、中国の経済規模と人口を考えれば「経済の成長率や荷動きが緩くなったといっても、全体のパイが他国に比べて桁違いに大きいという事実に変わりはない」と現地の関係者は口をそろえる。

 今後は中国から東南アジアなどへの生産シフトや日本への生産回帰が中長期にわたって続き、アジア域内・アジア発北米向けのトレードは緩やかに変化していきそうだ。船社・フォワーダーにとっては、そうした変化への対応が重みを増す。

 中国発東南アジア向けの部品・原料輸出に加え、今後は中国向けの輸入の取り込みも成長の鍵になりそうだ。中国政府は米国への配慮もあり、輸入を拡大する方針を打ち出している。昨年11月、商務部と上海市が開いた「第1回中国国際輸入博覧会(CIIE2018)」で、習近平国家主席は中国の物品・サービスの輸入額が今後15年間で計40兆ドル(約4500兆円)を超えるとの見通しを明らかにした。

■優勝劣敗が鮮明に

 ただ、米中貿易摩擦は中国の自動車販売にも影を落としている。中国の2018年の新車販売台数は前年比2・8%減の約2808万台と、28年ぶりの前年割れとなった。単月の統計では、今年2月まで8カ月連続の減少が続いている。

 もともと中国政府の金融引き締め策や小型車購入への減税措置の終了が需要減を招いたところに、米中貿易摩擦による先行き不透明感や株価下落が追い打ちをかけたとされている。

 自動車産業の裾野は広い。販売減のインパクトは大きく、経済全体や物流への影響を懸念する関係者は少なくない。その一方で注目されるのは、日系自動車メーカーはむしろ販売数を伸ばしている点だ。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、中国での日系メーカーの18年の市場シェアは18・8%で前年から1・8ポイント上昇した。トヨタ自動車の18年の新車販売台数は前年比14・3%増、三菱自動車は8・3%増。ドイツブランドも販売を伸ばしている。「造れば売れる時代は過ぎ去り、市場では優勝劣敗が進んでいる」と大手物流企業の幹部は指摘する。

 勝ち組と負け組の二極化は、自動車以外の分野でも進んでいる。急成長が続くEC(電子商取引)も例外ではない。実店舗を含めた販売戦略の巧拙によってEC企業間で差が出始めている。

 11月11日の「独身の日」セールなどでの繁閑差も大きな負荷になっている。その上、セール時は在庫積み増しをECモールの運営側から要求される。セールの回を重ねるごとに、過剰在庫と販売価格の低下にあえぐ企業が増えている。

 また、中国政府は環境・安全規制を年々強めている。これに対応できない中小企業を中心に倒産が相次いでいるといい、「経済が成熟していく中、中国市場では規制に対応できるだけの資金力と技術・サービス力のある企業が残っていくだろう」と大手物流企業の関係者は予測する。

 大手物流企業の幹部は「中国の物流市場は新興国型から先進国型に移っている」と分析する。急拡大の時代は終わり、企業間の競争はますます激化する。物流企業は自社の強みとターゲットを見定め、次の一手を打っていこうとしている。

 その一つが中国の内需物流の本格化だ。消費財の販売物流だけではない。例えば、医薬・医療や介護を含めたヘルスケアが注目されている。

■倉庫に「開発規制」

 一方で、不動産価格や人件費の上昇が日系物流企業の経営を圧迫している。契約更新のたびに賃借料が上がるのに加え、所有者から立ち退きを要求されることも珍しくはない。

 日系物流企業の多くは、中国では借庫をメインとしている。しかし、度重なる賃料値上げに自社倉庫を増やす検討を行う企業も出始めた。不動産価格の動向や建設コストとの見合いになるが、「工業用地の使用権の期間は50年間。それが30年間になるという話もあるなど不透明な要素が多く、検討が難しい」と倉庫会社の関係者は頭を抱える。

 加えて、都市部とその周辺では、倉庫の開発に対して法的根拠のない事実上の規制が敷かれているという。再開発や市街化の波が都市部の周辺に拡大し、工業用地を侵食。さらに、大手物流企業の関係者によると、中央政府からの圧力で地方政府が徴税を強化しているのに伴い、倉庫や工場開発の許可基準が従来の投下資本から税収に移っている。

 上海市の「税収ノルマ」は1畝(ムー)(666・7平方メートル)当たり50万(約830万円)-100万元とされる。地方でも20万-30万元の水準で、先の関係者は「物流業者や不動産開発業者の払える額ではない。むろん以前から押さえていた土地なら話は別だが、基本的に市街地と周辺に倉庫はいらないということだ」と説明する。

 倉庫の供給が絞られているのとは反対に、需要は拡大している。ECの急成長で店舗在庫が倉庫にシフトし、特に大型倉庫の需要が高まっている。不動産価格の上昇に需給逼迫(ひっぱく)が拍車を掛け、倉庫の賃料は「感覚的には、この3年間で30-50%上がっている」(前述の関係者)という。

■大手は自動化検討

 人件費の上昇も物流企業にのしかかる。最低賃金や平均給与は「地域や業種の差はあるが、毎年おおむね5-6%上昇している」と大手物流企業の関係者は顔を曇らせる。

 倉庫賃料と人件費上昇への対策として挙げられるのが、まずは庫内の保管効率の向上だ。貨物のロケーションとレイアウトの改善、ラックの導入などと併せて作業生産性の改善・作業の標準化を徹底し、借庫スペースを4割近く圧縮した例もある。このほか、顧客と在庫計画を詳細に調整することも有効だという。

 開発業者と協力し、開発・設計段階から関わることでコストを抑える方法もある。同一地区に複数倉庫を持つ大手であれば、倉庫間で保管量を調整することでも稼働率を高められる。

 次に、庫内の機械化・自動化だ。既に大手物流企業はマテハン(荷役機器)類の導入ばかりでなく、AI(人工知能)やロボット、IoT(モノのインターネット化)、RFID(電子タグ)など先端技術の導入へ動き出している。検討対象は主に中国製品。日本企業の製品を持ち込むと高額になる。分野によっては中国製品の方が優れているという事情もある。

 一方で、人件費の上昇はチャンスも生む。本業以外で人手のかかる作業をアウトソーシングする需要が拡大。日系メーカーが工場の構内物流を物流企業に委託する例が目立つ。中国の大手企業も自前主義の色彩が濃かったが、アウトソーシングで競争力を高めるという考え方が広がりつつあるという。

 好況期は物流需要が拡大し、既存顧客の取扱量が増加する。不況時には物流の見直し・コスト削減の要請に伴い、新規案件が増える。ある物流業者の関係者は「日本でも中国でも変わらない。今後は厳しい情勢が続くかもしれないが、好不況にかかわらず、顧客の要望に対応できるようにしておくことが重要だ」と将来を見据えた。