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 印刷 2019年03月20日デイリー版2面

MariTech 海事未来図】(11):JRCS/MR技術で遠隔トレ

Hololensのイメージ画像
Hololensのイメージ画像
MR技術のメリットを説明する近藤社長
MR技術のメリットを説明する近藤社長

 メガネのようなデバイスを装着した女性が10本の指を目の前に置くと、現実には存在しないピアノの音が鳴り、左右に振るとスクリーンに表示された風力発電設備のCGモデルが動き出す。今年2月24日にマイクロソフトが発表した「HoloLens2」(ホロレンズ2)は、複合現実(MR:Mixed Reality)が実用的なステップに入ったことを示した。

 このMR技術に着目し、海事産業への活用に向けた取り組みを行っているのが、船舶用配電機器の製造・販売などを手掛けるJRCS(山口県下関市)だ。

 海洋事業者向け遠隔トレーニングや遠隔メンテナンスソリューションの実用化に向けて検証を進めていくほか、将来的な船舶の自動航行までを見据えた「Digital Innovation LAB」を2018年4月に立ち上げ、今年4月には早くもMixed Realityを使用した高圧配電盤の遠隔トレーニングソリューションをスタートさせる。

 「とにかくスピードだ」と近藤高一郎社長は強調する。「日本のメーカーは完璧を目指し、3年ぐらいの時間をかけて製品を出してきたが、それでは間に合わない。どんどんプロトタイプを出して、評価を受けながら修正していかないと、世界のスピードに乗り遅れてしまう」

■実体あるホログラム

 MRの大きな特徴として、現実世界に仮想世界の情報を重ねるだけでなく、ホログラムへ実際に近づいて、自分の指で操作を行えるという点がある。MRを投影するHoloLens自体が、最新のオペレーティング・システム(OS)を搭載する独立したコンピューターとなっており、ネットワークを経由して複数の人とリアルタイムで情報を共有することも可能となっている。

 日本でもすでに自動車、鉄道、航空、建設といった分野で導入が進む一方、海事産業での採用例はない。

 近藤社長も「日本全体で見ると、海事産業のデジタル化はあまり進んでいない」と危機感を抱く。「こうしたデバイスを活用することで若い人たちに興味を持ってもらい、乗組員を確保する必要がある。外国人の乗組員も増えている中で、より高度なトレーニングをしていかないと、船を安全に航行させることができなくなる」

■研修をより手軽に

 これまで配電盤に関する研修は、下関のトレーニングセンターなどで行ってきた。しかし、高電圧が印加される部分については、実際に見ることができないため、何が危険なのかイメージしづらいという点があった。また、外国人船員への教育では受講生が、研修施設まで移動する必要があるため、コストや時間的にも大きな負担となっていた。

 一方でMRを活用した遠隔トレーニングでは、HoloLensを装着してしまえば、日本のトレーナーが実施する研修を中国、フィリピン、ロシア、インドなどでもリアルタイムで受講できる。Digital Innovation LABの空篤司CDO(最高デジタル責任者)も、このソリューションについて「誰でも、どこでも、いつでもがコンセプト」とメリットをアピールする。

 デバイスに投影された実物大の配電盤は、内部の危険区域が注意書きとともにビジュアルで示される。普通は見ることができない機器の裏側も再現されており、複雑な配線や配置についても学べる。

 「海事産業に携わる人たちを、デジタルの力で笑顔にしていくというのが私たちのミッションです」と空CDO。トレーニングアプリは外航船の船員をターゲットに、まず英語と中国語に対応したコンテンツから実装を行う。

■海運の未来変える

 近藤社長は「何年か先には、配電盤のメーターやスイッチがなくなるような世界になっていくかもしれない。モニターがなくても機器の状態を確認することができる。遠隔トレーニングを皮切りに、遠隔メンテナンス、そして将来的にはIoT(モノのインターネット化)やビッグデータを活用したコネクテッドヴェッセルを見据えたソリューションを提供していきたい」と将来像を語る。

 同社はMRやAI(人工知能)技術をさらに発展させ、2025年には自律運航船のアプリケーションの開発を行うというロードマップを描いている。陸上のオフィスから海上を航行している船を自在に操作し、機器を点検することができるとしたら、海事産業全体の状況が大きく変わる。

 「これから海事産業というカテゴリーはなくなっていき、ロジスティックの捉え方の一つになっていくかもしれない。さまざまな課題がある中で、世界の流通で90%を担っている海運を止めないためにも、デジタルトランスフォーメーションを推進する必要がある」(近藤社長)