印刷 2019年01月23日デイリー版2面

MariTech 海事未来図】(3):日本郵船/データ分析で差別化

山田チーム長
山田チーム長

■IoT本格活用

 日本郵船は現行5カ年中期経営計画「ステイングアヘッド2022 デジタライゼーション&グリーン(D&G)」で、「D」を新たな価値創造のドライバー(けん引役)とする方針を鮮明にした。研究開発に携わるグループ会社であるMTIなどを擁し、邦船だけでなく海運業界としても先駆的な取り組みが目立つ。

 「D」の取り組みで特に注力するのが、IoT(モノのインターネット化)技術を活用した航海データ・機関データの取得と分析だ。船舶というハードウエアそのものでは差別化が困難になっており、データ活用というソフト面を強化することで、ステークホルダーに新たな価値を提供していく。

 さまざまなプロジェクトが進捗(しんちょく)する中で、機関データ活用についての例を挙げる。狙いは 1.トラブルの予想・早期発見 2.CBM(コンディション・ベースド・メンテナンス=状態基準保全) 3.効率運航 4.環境保護-の4本柱からなる。このうちCBMは、使用時間に基づいた従来のメンテナンスから、機器ごとの実際の状態に基づいた合理的なメンテナンスに切り替えるもの。状態を把握するには船舶のさまざまなデータの収集が必須であり、また機器メーカー、造船所、船級協会とも連携しながら、新たなサービスの創造や高度な安全運航を実現する。

 船陸間通信技術が近年飛躍的に発展したことから、船舶のさまざまな情報を陸側に送信可能となったこともIoT技術を活用できるようになった一因だ。日本郵船では、すでに2008年から船舶情報管理システム「SIMS」を開発しており、現在は約180隻に搭載しデータ収集を行っている。以前からデータを陸上で分析・管理する体制を整備してきたことで、運航管理者・船舶管理担当者などに「LiVE for Shipmanager」というアプリケーションを通じて可視化・分析した形で提供する。

 「LiVE for Shipmanager」では主機・発電機・補機など、担当者が確認したい機器・項目ごとにデータ表示をタブ形式で切り替えられる。ドック入り前後など時系列比較や、姉妹船での比較なども可能だ。また、アラームを集計し期間と頻度から本船の弱点を分析するアラームモニター機能も備える。さらに、基準値(閾値(いきち))に達していなくても、ベテラン機関士のノウハウから判定する不具合の予兆と思われる一定の変動があれば通知を出し、わずかな異変でも陸上から本船に指摘ができる。

 これまでもデータは船内のデータロガーで収集されていたが、乗組員がそれを詳細に解析・分析し他船にも展開するということは行っておらず、ストレージ(蓄積)もしていなかった。

 海務グループの山田省吾ビッグデータ活用チーム長は「瞬間値を見ただけでは緩やかな異変を察知することは難しい。データは蓄積し時系列にして初めて、傾向や瞬時に判断できないような変化も把握できるようになる」と情報分析の重要性を説明する。例えば、主機負荷と主機冷却水出口温度のトレンドグラフを見ることで、そのわずかな温度変化から、冷却水ラインの異常を早期発見するなど、「LiVE for Shipmanager」により大事故につながりかねない不具合を事前に摘み取ってきた実績は多数ある。

■異常を自動検知

 「LiVE for Shipmanager」は運航管理者、船舶管理会社担当者(監督など)の陸上担当者向けのアプリケーションだが、機関長が船上で使用する想定のアプリケーションも開発中。「ユーザーから一層のフィードバックが得られ、開発がさらに進展する」(山田チーム長)ため、UI(ユーザーインターフェース)の改善には継続して取り組み、より使いやすいシステムを目指す。

 また、担当者が24時間状態で監視する体制は人的負荷が大きいため、システムによるモニターを目指し、異常検知の最適なロジック構築を推進しており、現在、ベータ版(トライアル版)を運用中だ。インハウスの船員配乗会社NYKフィルシップマネジメントの船員の協力も得て、機械学習に人間の判断も加えることで、自動異常検知の精度を改善する。

 今後も「SIMS」「SPAS(電子アブログシステム)」などで収集されたデータの蓄積は進む。日本郵船ではこの船舶ビッグデータ群の解析にAI(人工知能)、ディープラーニング(深層学習)なども導入し、より安全で環境負荷の低い航海を実現していく。

(週1回掲載)