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船内生活を劇的に変える画期的なコンテンツ配信サービス IP-MobileCast (IPモバイルキャスト) 2014/08/20 12:00 日本海事新聞 AdオンNet

大容量・高画質の映像コンテンツを、衛星インターネットを通じて船舶に配信できるサービスがスタートした。米国の衛星通信会社KVHインダストリーズが今春開始したIP-MobileCast (IPモバイルキャスト)。最新の映画やテレビドラマ、スポーツ、音楽、世界各国ニュースのほか、運航業務に必要な気象・海象情報、海図、船員トレーニングなどの大容量データを、業務ネットワークに負荷をかけることなくダウンロードできる。情報や娯楽が少ない船内環境をガラッと変えるこのテクノロジー。来月東京で開催される「デジタルシップ2014」は、IP-MobileCastを疑似体験できる貴重な機会となるだろう。


ライブ感覚でスポーツ観戦が

船内でのワールドカップ観戦模様
船内でのワールドカップ観戦模様

今年6~7月にブラジルで開催された2014 FIFAワールドカップ。大西洋上を航行していた某欧州船主のLPG船内では、食堂に集合した航海士やクルーたちがサッカー観戦に熱狂していた。実況とのタイムラグは多少あったが、洋上という環境を考慮すれば、ほぼライブに近い感覚である。あるベテラン甲板手は「大西洋のど真ん中でワールドカップを観戦できるなんて初めての経験。沿岸で受信できる衛星テレビと比べて画質も全く遜色ない」とコメントした。同船のように、いち早くIP-MobileCastを導入したことによって、全世界で約1000人の船員たちが今回のワールドカップを楽しむことができたという。

船舶インターネットの接続環境はここ数年急速に改善している。業界標準のインマルサットに加え、海洋VSAT(超小型衛星通信地球局)サービスが拡大し、ブロードバンドサービスにバリエーションや値ごろ感が出てきたからだ。とはいえ、下りのスピードは500Kbps~1Mbs程度。100~200Mbpsがご時世の陸上と同じ感覚とはいかない。この環境で大容量の映像コンテンツをダウンロードするとネットワークのキャパシティを占有してしまい、本来の運航業務に必要なデータ転送に影響する恐れもある。

大容量データ転送の仕掛けとは

IP-MobileCastはこの難題を2つのテクノロジーによって克服した。1つ目がその配信方式だ。通常、我々が利用するインターネットでは端末からのリクエストに応じてサーバーからデータをダウンロードする。つまり1対1の配信。これをユニキャストと呼ぶ。細いパイプの中を端末台数分の上下のトラフィックが発生するので、利用台数が多ければそれだけパイプが詰まりやすくなる。データ量が大きければなおさらだ。

図表1
図1

これに対して、IP-MobileCastでは契約船全船のサーバーに同じデータを一方通行で配信し、船側で契約内容に応じたコンテンツを再構築する。この1対多の配信方式をマルチキャストと呼ぶ。いわば衛星テレビ放送と同じようなもので、当然ながらパイプを通るトラフィックは格段に少なくなる (図1参照)
「ダウンリンクを非常に効率的に利用できるようになります。IP(インターネットの通信プロトコル)を使った、移動体(モバイル)への放送(ブロードキャスト)という単語を組み合わせて、「IP-MobileCast」とネーミングされました」(山根好人・日本KVHインダストリーズ代表取締役)

図表2
図2

しかしひとつ疑問が残る。たとえ交通整理はできても、転送するデータの量が大きいことに変わりはない。
「運航業務で使うネット通信は通常のユニキャスト方式で、山谷はあるが実は平均すると契約している通信限度容量の約半分しか使っていません。優先的に使う1対1のユニキャストの上の、使っていない部分にマルチキャストのトラフィックデータを載せる仕組み(図2参照)。これが業務通信に影響を与えることなくテレビや映画を受信できる、IP-MobileCastの肝になる仕掛けです」(山根氏)

船内娯楽の充実に大きく貢献

さて、技術的にクリアーできたインフラ部分と共に要となるのは配信コンテンツだ。KVHは2013年5月に英Headland Media社を買収した。もともと海上やホテルに映画やスポーツ、音楽、ニュースなどの商用ライセンスを販売するメディア配信会社で、例えば船舶に映画やテレビ番組を提供する場合はDVDメディアを配達するほか手段がなかった。優良コンテンツを持つが通信手段をもたないHeadland Media、コンテンツはないが配信手段を開発したKVH。両社の足りない部分を補完するかたちでKVH傘下にコンテンツを調達する専門会社・KVHメディアグループが発足し、IP-MobileCastのサービスに結実したのである。

最新映画のリスト(2014年7月版)
最新映画のリスト(2014年7月版)

IP-MobileCastのコンテンツは実に豊富だ。エンターテインメントのカテゴリーでは映像系のメニューとして、最新映画のMOVIElink(ムービーリンク)、最新テレビ番組のTVlink(テレビリンク)、SPORTSlink(スポーツリンク)は総合チャンネルと種目ごとのチャンネルがある。先のワールドカップの放映は特別番組として別料金で提供された。MUSIClink(ミュージックリンク)は音楽ジャンルごとのプロモーションビデオを楽しめる。

NEWSlink(ニュースリンク)は映像とプリントの2タイプがあり、前者は現在のところ英語の6チャンネルとそれ以外の言語による12チャンネル。英語チャンネルのうちCNNとBBCはそれぞれ別料金。
 後者のプリント版は各国の英語ニュースが約40種類、母国語によるニュースが約20種類とバリエーションが充実している。KVHメディアグループが世界の通信会社が配信した記事を独自に編集したもので、だいたいA4版で4ページ、大半が日刊である。
「邦船社の船はフィリピン人船員が多く配乗されているので、フィリピンの公用語の一つであるタガログ語のバージョンは喜ばれると思います」(山根氏)
 その他、金融や海事関連、スポーツやエンターテインメント、健康など専門媒体が提供しているニュースもある。船内でプリントすることはもちろん、PCやタブレットで読むことができる。残念ながら、まだ日本語によるニュースリンクのメニューはないが、今後追加していく予定だという。⇒ニュースリンク(プリント)の詳細リスト

以上、エンターテインメントカテゴリーのコンテンツ希望小売価格表は次の通り。

コンテンツ価格表
コンテンツ価格表

内容や量に応じて、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと4タイプがあり、ニュースリンクのプリント版はどのカテゴリーでも利用できる。映画やテレビ番組は、購入後1年間は継続して視聴できる。たとえばブロンズでは1月あたり10本なので、1年間だと120本が視聴できる計算になる。

運航業務のソリューションも

IP-MobileCastのもう一つの役割。それが運航実務に関する各種コンテンツの配信だ。海図、気象、船員トレーニングに関するソリューションパートナーのコンテンツを、スムーズに船までデリバリーする。
 CHARTlink(チャートリンク)では、電子海図プロバイダー・Jeppesenの海図データをダウンロードできる。ECDIS(電子海図情報表示装置)で使用するENC(公式電子海図データ)は日々更新されており、安全運航のために船側で改補が要求される。容量の大きなデータのためダウンロードには時間もネットワークへの負荷もかかるが、IP-MobileCastを利用すれば業務に影響することなく最新のENCを取得できる。
 TRAININGlink(トレーニングリンク)では、すでにKVHメディアグループ傘下に入ったWalportとVIDEOTELが提供するトレーニング映像プログラムを利用できる。運航技術や安全、環境などに関するストーリー性のある映像教材で、通常はDVDで利用するものだが、ディスクの調達や入れ替えから解放される。
「最近の船はいろんな国のミックスクルーになっているので、文化の違いを考慮しつつ、いかにうまく船内をマネジメントするかを目的としたコンテンツもあります」(山根氏)
 FORECASTlink(フォーキャストリンク)では、AWT(Applied Weather Technology)社が提供する、高解像度の気象・海象データ、港周辺の予報、また海賊の状況など、運航のプランニングに必要となるデータが利用できる。
 パートナー各社の詳細は、本ページ右にあるリンクから参照していただきたい。

ハードウェアの追加で手軽に導入

KVH Media Server
KVH Media Server

では、実際にIP-MobileCastを利用するためには何が必要なのか?
 まずKVHのアンテナを搭載して同社のVSATサービスを利用していることが前提。同社の船内ネットワークマネージャー機器「COMMBOX」を利用している場合は、仕様を追加すれば利用できるようになる。しかしデータの保存容量に限度があるので、今秋日本でも発売開始する予定の「KVH Media Server」(KVHメディアサーバー)というコンポーネントを追加搭載するのが理想的だ。製品自体の希望小売価格は3,995US$。
「日本のお客様でKVHのアンテナを搭載している船舶は約200隻ですが、今のところまだ導入実績はありません。IP-MobileCastのケーススタディーとして最初に手を挙げてくださるお客様には、KVH Media Serverの費用面のインセンティブも検討します」(山根氏)

昨年8月にILO(国際労働機関)の海上労働条約「MLC2006」が発効した。国際航海に従事する500総トン以上の船舶は海上労働証書の取得が義務付けられ、雇用、健康、医療、福祉、社会保障、居住設備・娯楽設備、食料・供食などに関する要件を満たすことが必要になる。IP-MobileCastもこの流れを受けたもので、船内環境の質の向上、そして優良船員の獲得という面でも、船舶の運航管理者にとって役立つサービスとなるに違いない。
「IP-MobileCastは単に福利厚生面での娯楽や一般情報だけでなく、業務用の運航に関わる情報もカバーできるため、KVHとしてはこの技術自体の用途をもっと広げたいと考えています。例えば一定のフリートを管理している船主や管理会社、オペレーターが会社単位のデータを船陸間でやりとりする場合に、この技術を利用できるよう将来的に発展させていきたいと思います」(山根氏)

日本KVHインダストリーズでは、デジタルシップ2014の開催に合わせてKVH Media ServerとタブレットPCを使った実機デモを会場内ブースで行う予定だ。

文・大場伸二

山根 好人    やまね よしと
1961年生まれ。シラキュース大、ワシントン大卒。
コンピューターサイエンスを学び、米国でコンピューター関連企業に約10年を過ごし、帰国後は日本マイクロソフト、常石造船子会社の技術研究企業に従事。KVHの日本支社設立に関するコンサルティング業務を通じて、日本KVHインダストリーズ代表に就任。鳥取県出身

[お問い合わせ] 株式会社日本KVHインダストリーズ
〒162-0844
東京都新宿区市谷八幡町12-1 ガーデンテラス市谷八幡5F
Tel:03-3280-8811 Fax:03-6280-8812

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